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「部下が上司におごる」時代なのか?投稿で炎上...催促続くけど本気?ただの冗談? 専門家に聞いた(2)

――部下が上司にごちそうする時代ってホントですか?

   というウソのような20代女性の投稿が、炎上気味だ。女性は職場で、40代の男性上司2人から「お世話になっているお礼に、高級すし店でごちそうしてよ」とひんぱんに声をかけられる。

   これは冗談なのか? 本気なのか? パワハラだと批判する声が圧倒的だが、「部下が上司をおごるのもアリ」という意見も。専門家に聞いた。

  • 上司と飲んで、部下がおごるのは当たり前なの?(写真はイメージ)
    上司と飲んで、部下がおごるのは当たり前なの?(写真はイメージ)
  • 上司と飲んで、部下がおごるのは当たり前なの?(写真はイメージ)

「バレンタインでも上司にチョコをあげない女性が大半」

   <「部下が上司におごる」時代なのか?投稿で炎上...催促続くけど本気?ただの冗談? 専門家に聞いた(1)>の続きです。

――今回の論争の背景には、職場における「ノミニュケーション」や、上司と部下の「おごる」「おごられる」問題がありそうです。川上さんが研究顧問をされている、働く女性の実態を調べている「しゅふJOB総研」でそういった問題を調査したことがありますか?

川上さん「上司におごるということではありませんが、仕事と家庭の両立を希望する主婦層に、バレンタインデーに職場でチョコレートを贈るかどうか、また、そのことをどう感じているかを調査したことがあります。
◆バレンタインデー、職場で負担?

それによると、バレンタインデーに職場でチョコレートなどのプレゼントをあげたことがある人は9割に上りますが、上司にチョコレートをあげる予定だと答えた人は1割に留まっています。
また、職場でチョコレートをやり取りすることに負担を感じると答えた人が7割を超えています。イベント性があるバレンタインデーでさえ、7割は否定的です。ましてや、今回の投稿で上司たちは、日ごろお世話になっている印として、高い焼き肉やお寿司をおごるよう、投稿者さんに強要しています。イベント性があるわけでもなく、言われる側としてはただ負担に感じるだけのはずです」

「鈍感な上司は部下を過労死に追い込む」

――回答者たちの圧倒的多くが「パワハラだ」「人事に訴えるべきだ」という意見です。川上さんは上司たちの主張や態度についてどう思いますか?

お寿司とかをごちそうしてと上司は言うが...(写真はイメージ)
お寿司とかをごちそうしてと上司は言うが...(写真はイメージ)
川上さん「仮に、上司たちが本気でおごれと要求しているのであれば、明白なパワハラです。議論の余地はありません。しかし、冗談のつもりで投稿者さんの反応を楽しんでいるのであれば、冗談が成立しなくなっていることに気づかない鈍感な上司たちだということになりますよ。
上司たちに悪気はないのかもしれませんが、得てして強い立場にいる者は、弱い立場にいる者の気持ちに対して、鈍感になりがちです。鈍感な上司は、仮に自分の言動が原因で部下を過労死などに追い込んだとしても、そんなことで死ぬとは思わなかった、などと言い訳することでしょう。自分たちの言動が危険性をはらんでいると自覚していないことが、大いに問題だと思います」

――非常に鈍感で、問題の多い上司たちだということですね。ところで、この上司たちの言い分を認めるわけではありませんが、一般論として「部下から上司をおごるケースもアリだ」という意見が少なからず寄せられました。最近は少なくなりましたが、お世話になったお礼にとして、上司にお中元を贈る場合もあるではないか、という意見もありました。

川上さん「お中元などは、上司と部下が円滑なコミュニケーションをとっていくうえで、互いに気持ちよく、健全な範囲で行われるのであればよいと思います。しかし、上司の心のどこかに強要する気持ちがあったり、部下に上手く上司に取り入ることで便宜を図ってもらおうとする気持ちがあったりするようだと問題です。
また、そういう気持ちがなかったとしても、会社関係者同士で不要な金品のやりとりをすることが、あらぬ癒着を疑わせる可能性もあります。昇進や昇給、人事配属などの利害関係がからむ間柄で、金銭を伴うやりとりは十分注意が必要です。李下に冠を正さずだと思います」

「レジで支払う姿を見ないのがたしなみ」

「おごる」「おごられる」はどんな関係がいいの?(写真はイメージ)
「おごる」「おごられる」はどんな関係がいいの?(写真はイメージ)

――たしかにそのとおりですね。お中元でなく、ノミュニケーション場の「おごる」「おごられる」ではどうでしょうか。上司も昔は「交際費」で落とすことができました。「上司におごられた時は、上司がレジで支払う様子を見ないことが女性社員のたしなみ」というのは、昔からよくある話。上司だって領収書を請求する姿(それも、金額が白紙だったら...)を部下に見られたくない、と。昨今は経理事情が厳しく、いつも上司がおごるとなると大変だと思いますが、職場の飲み会の「おごる」「おごられる」問題についてはどう思いますか。

川上さん「必ずしも、上司がおごるべき、ということではないと思います。が、差しさわりのない人づきあいの中で、ねぎらいや感謝の気持ちを込めた『おごる』『おごられる』の関係も、たまにはよいものだと思います。ただし、余計な勘繰りがされるような金銭のやり取りにならないようにだけは、重々注意しておく必要があります。
また、たとえば上司の誕生日に食事に招待して、その時は部下たちだけで支払うという交流も、個人の負担が大きくなり過ぎず、誰かが抜け駆けして上司に取り入るようなかたちにもならないため、よいコミュニケーション機会になるかもしれません。
一方、飲み会費用を会社経費として処理できる場合は、部下たちも上司の支払いに期待しそうです。しかし、会社経費の場合、上司は支払権限を持っているだけで、それは会社のお金。上司のお金ではないので、決しておごったことにはなりません。会社の利益を考えて、有益な親睦の場にできているか、上司が適切に判断すればよいのだと思います」

お粗末な上司の「イジリ」を受け流すのも手だが...

――川上さんなら、この投稿者にどのようにアドバイスをしますか。

川上さん「本気でおごるように要求しているのか――あらたまって直接上司たちに確認してみてはどうかと思います。上司たちは自分たちの冗談が、冗談だと受け止められなくなっていることに気づいていない可能性があります。
しかし、直接確認するのは気が引けるという場合は、さらに上の上司や人事などに相談してみてもよいと思います。本気で部下におごるように要求するような上司であれば、他にも同じように、立場の弱い社員に恐喝めいたことをしている可能性があります。
一方、冗談で言っている可能性のほうが高ければ、適当に調子を合わせながら気にせず受け流してしまってかまいません。しかし、あまりのしつこさにガマンできず受け流せない場合は、キッパリとやめてほしいと伝えるか、上司たちの上司、あるいは人事に相談してよいと思います」
「NO」を突きつけることも大事だ(写真はイメージ)
「NO」を突きつけることも大事だ(写真はイメージ)

――投稿者の女性は、「性格上キッパリ断ることができない」と書いていますね。

川上さん「お粗末な上司たちのせいでストレスを溜めてしまい、投稿者さんが心身の健康を害してしまうことのほうが心配です。
ただ、上司たちとしては、年代の離れた投稿者さんと楽しくコミュニケーションをとっているつもりなのかもしれません。『いつごちそうしてくれるの?』という投げかけに、困った顔をしながら『お金ないんで』と返す投稿者さんとのやりとりを『お約束』のノリで楽しんでいるのかもしれません。
俗に言う『イジリ』です。それらの『イジリ』や『お約束』がイヤでなければ、上手く合わせればよいでしょう。しかし、苦痛であれば、やっぱり一度きちんと気持ちを伝えたほうが、お互いにとってもよいと思います。『イジリ』や『お約束』は、信頼関係が成立している中で行われてこそ楽しめるのであって、一方的に押し付けるものではないということを上司たちは学ぶべきです」

(福田和郎)