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「街のからあげ屋さん」空前のブーム! コロナ後の淘汰心配...生き残る秘訣は?

「とりあえず、生ビール大ジョッキで。それと枝豆とからあげ!」

   飲み屋に入ると、お約束のようにこう注文する人は多いだろう。それほど人気がある「からあげ」を手軽にお持ち帰りできる「街のからあげ屋さん」が目につくようになった。

   東京商工リサーチが2022年2月3日に発表したリポート「『からあげ屋さん』が2017年から2倍に この出店攻勢は続くか」によると、コロナ禍によって打撃を受けた飲食店からの新規参入が目立つ。しかしブームはいつまで続くのだろうか。調査担当者に聞いた。

  • 美味しそうなアツアツのからあげ(写真はイメージ)
    美味しそうなアツアツのからあげ(写真はイメージ)
  • 美味しそうなアツアツのからあげ(写真はイメージ)

「好きなおかずランキング」1位はからあげ!

   からあげは、子どもからお年寄りまでファン層が幅広い。昨年(2021年)10月5日に冷凍・レトルト食品のニチレイフーズが発表した「全国から揚げ調査2021~好きなおかずランキング」によると、からあげが焼き肉や餃子、刺し身、すき焼きなどの人気具材を破って、2年連続で堂々1位に輝いている=図表1参照

(図表1)好きなおかずランキング1位の「からあげ」(ニチレイフーズのプレスリリースより)
(図表1)好きなおかずランキング1位の「からあげ」(ニチレイフーズのプレスリリースより)

   子どもの弁当のおかずにもなるし、お父さんのお酒のつまみにもなる。おにぎりやサンドイッチの具材、カレーやラーメンのトッピングにも使えるのだ。食卓の主役に脇役にと大活躍だ。

   そんな「国民食」からあげだが、東京商工リサーチの保有する企業データベース(約390万社)で、「からあげ屋さん」関連事業を営む企業を調べたら、昨年(2021)年9月末で235社にのぼった。新型コロナ感染拡大前の2019年9月末は190社だったが、コロナ禍の最中に45社(23.6%増)増えたかたちだ。

   ただし、この数字はあくまで「事業」として「からあげ屋さん」を営んでいる事業者(個人経営を含む)の数字だ。1社で数百ものチェーン店舗をもつ大手も、1人で屋台を出している個人も同じ「1社」にカウントされる。現在、大手チェーン店はどんどん傘下の店舗を増やしているから、実際の店舗数の伸びはもっとハイペースで、全国で数千に達するとみられる。

   背景として、新型コロナによる生活様式の変化で、テイクアウト(持ち帰り)とデリバリー(宅配)需要を取り込んだ格好だ。データによると、「からあげ屋さん」は2017年から2018年にかけ、大手チェーン店の参入などで一度目のブームが起きた。その後、2019年は新規参入が鈍化した。しかし、コロナ禍の2020年に再び「からあげ屋さん」への新規参入が目立ち始めた=図表2参照

(図表2)「からあげ屋さん」企業数推移(東京商工リサーチ作成)
(図表2)「からあげ屋さん」企業数推移(東京商工リサーチ作成)

「からあげ屋さん」が九州に多いのはなぜ?!

   地区別にみると、「からあげ屋さん」235社のうち九州が96社(40.8%)と、ダントツに多い。次いで、関東47社(20.0%)、近畿35社(14.8%)と続く=図表3参照。九州に集中するのは、もともと養鶏が盛んで、鶏肉消費量が多い土地柄だからだ。本社の所在地をみると、福岡県がトップの44社だが、2位の大分県35社が目につく。実は、大分県中津市が「からあげの聖地」として知られる。

(図表3)「からあげ屋さん」は九州に多い(東京商工リサーチ作成)
(図表3)「からあげ屋さん」は九州に多い(東京商工リサーチ作成)

   中津市には終戦後、国の方針で食糧難に備えて多くの養鶏場が作られた。そこに、中国東北部の旧満州からの引き揚げ者がたくさん移住してきた。彼らは、塩に漬けたり、醤油に漬けたりして鶏肉を揚げる中国の料理方法を地元の人々に伝えた。これが「からあげ」が始まりだとか。「中津からあげ」は、現在も全国にその味のファンが多い。

   さて、資本金別では、「個人企業」が118社(50.2%)と半数以上を占め、資金がなくてもすぐに参入できる「からあげ屋さん」の人気を表している。このところのオミクロン株の急拡大もあって、飲食店は苦境が続くが、「からあげ屋さん」の運営企業数は堅調に伸びているようだ。

(図表4)「からあげ屋さん」は個人企業も多く、資金力がないところも少なくない(東京商工リサーチ作成)
(図表4)「からあげ屋さん」は個人企業も多く、資金力がないところも少なくない(東京商工リサーチ作成)

   東京商工リサーチでは、

「酒類の提供停止や休業要請で打撃を受けた居酒屋が、『からあげ屋さん』に参入するケースが多い。価格も比較的安価で、子供から大人までファン層が幅広い『からあげ屋さん』は、テイクアウトなどとの相性の良さも強みになっている。ただ今後、これまでの成長をたどるか、淘汰の時代に入るか、分岐点を迎えている」

と、分析している。

冷蔵庫とフライヤーがあれば、すぐ開業できる

   J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、なぜ「街のからあげ屋さん」がブームになっているのか、もっと詳しく知るために調査を担当した東京商工リサーチ情報部の小川愛佳さんに話を聞いた。

「からあげ屋さん」といえば屋台でも人気(写真はイメージ)
「からあげ屋さん」といえば屋台でも人気(写真はイメージ)

――今、これほどブームになる一番の理由はなんでしょうか。

小川愛佳さん「出店にコストがほとんどかからないことです。狭い場所でも冷蔵庫と鶏肉を揚げるフライヤーがあれば、すぐに参入できます。とくに難しい料理方法や技術が必要なわけでもなく、人件費もあまりかかりません。もともと飲食店をやっていた人からすれば、テイクアウトやデリバリーをしてもらうだけですから、手慣れた仕事になります。
また、飲食店を続けて店内でお客に定食料理などを提供する一方、片手間にからあげを作り、道路側の窓からテイクアウトで提供すれば、『街のからあげ屋さん』としても営業することもできます。むしろ、そういうかたちが多いでしょう」

――しかし、ひとくちに「からあげ」と言っても、塩味やしょうゆ味、ポン酢ダレ、マヨネーズ、タルタルソース、ねぎソースなど、味のバリエーションは無限大ですよ。味つけに工夫しないと、お客が来ないのではないでしょうか。

小川さん「そのこともあって、フランチャイズに入るところが増えています。大手チェーン店の傘下に入れば味つけが同じですから、出店しやすくなります。味つけ以外は、鶏肉の調達など自由にさせてもらうところが多いです」

最大のライバルはやっぱりコンビニ

からあげは弁当のおかずの定番(写真はイメージ)
からあげは弁当のおかずの定番(写真はイメージ)

――そんなに手軽に「街のからあげ屋さん」になれるのなら、今後、競争が激化して、生き残るのが大変になりそうですね。

小川さん「そのとおりです。店舗数が増えれば、お客の数に限りがありますから、各店の収益は減ります。とくに、コンビニが最大のライバルになりそうです。『ホットスナック』として揚げ物を出すコンビニが増えています。
からあげを団子のように串にしたセブン-イレブンの『からあげ棒』、ミニからあげをパッケージにして、ポイっと口に運べるローソンの『からあげクン』、ザクザクした衣とジューシーなモモ肉を組み合わせたコンビニチキンのはしりともいえるファミリーマートの『ファミチキ』などです。
『街のからあげ屋さん』は参入しやすい半面、資金力が乏しく経営体力がない店が多いのが弱点です。味に差別化をはかり、この店のからあげをぜひ食べたい! とお客に思わせる工夫をしないと、これからは厳しいでしょう」

   調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象約390万社)から、営業種目や事業を変えた要因に「からあげ」の記載があるものを抽出、分析した。

(福田和郎)