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働く妻の不在時、育休夫が保育園ママ友を家に招くのは許される?...不倫の下心?子育て相談に必要?専門家の裁定とは(2)

「育休夫が妻不在時にママ友を自宅に招くのは許されますか?」

   こんな働く女性の投稿が炎上気味だ。2人の子を持つ女性の夫は1年間も育休をとり、家事育児、保育園の送り迎えと専業主夫状態で女性を支えていた。

   ところがある日、子ども連れだが、保育園の「ママ友」と互いに家を行き来していたことが判明、大ゲンカになったというのだ。

   「あり得ない!」「夫は不倫する気満々」と非難轟轟な一方、「ママ友との相談も禁じられ、ワンオペで育児をやれというの」と擁護する声もあり、大激論になっている。専門家に話を聞いた。

  • 夫の仕打ちには怒りを覚える(写真はイメージ)
    夫の仕打ちには怒りを覚える(写真はイメージ)
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「育休男性は8人に1人、過渡期ならではの問題」

   <働く妻の不在時、育休夫が保育園ママ友を家に招くのは許される?...不倫の下心?子育て相談に必要?専門家の裁定とは(1)>の続きです。

――今回の論争の背景には「男性の育休取得」あるいは「専業主夫」の課題があると思われます。川上さんが研究顧問をされている働く女性の実態を調べている『しゅふJOB総研』で、そうした問題を調査したことがありますか。

川上敬太郎さん「仕事と家庭の両立を希望する主婦層に、『あなたは男性の育児休業取得を義務化すべきだと思いますか』と尋ねたことがあります。
◇働く主婦は、男性の育休義務化をどう思っているのか?

この調査によると、『思う』という答えが過半数で、『思わない』という人は3割に届きません。この結果には、子育ては女性がするものという性別役割分業意識に対する反発心が隠されていると感じます。しかしながら、まだ育休を取得する男性は少数派なのが現実です。厚生労働省の雇用均等基本調査(2020年度)によると、男性育休取得率は12.7%に留まります。約8人に1人しかいません。
ただ、男性育休取得率は年々右肩上がりです。つまり、今回の投稿者さんの悩みは、いずれほかの家庭でも起こりうる課題であり、社会が新しい姿へと変貌していく中で乗り越えなくてはならない壁の1つだと言えるかもしれませんね」
ママ友同士やパパ友同士では不自由ないのだが...(写真はイメージ)
ママ友同士やパパ友同士では不自由ないのだが...(写真はイメージ)

――回答者たちの意見の多くは「子連れとはいえ、妻の不在中に女性を家に入れるなんてあり得ない」「不倫する気満々」と、夫を批判する声が多いですね。

川上さん「妻が不在時にママ友を家に入れることから何を連想するかは、かなりの個人差があるように思います。『あり得ない』『不倫する気満々』と悪い方向に考えてしまう人もいれば、子ども連れなのだから気にならない、という人もいるのではないかと思います。また、夫がどういうタイプの人なのか、ママ友がどういうタイプの人なのかによっても、左右されるのではないでしょうか」

――たしかにそうですね。ただ、夫には「前科」があるようです。結婚前、「二股をかけられた」というものです。

川上さん「なかなかデリケートな問題ですが、過去は過去と割り切れる人もいます。しかし、その時の記憶が深く刻まれていれば、夫を疑いの目で見てしまっても不思議ではありません。もし、実際には何もやましいことなどなかったとしても、そのような過去を踏まえれば、夫はもう少し慎重に振る舞うべきだったように思います」

批判されては男性の育休推進はとても無理?

――その一方で、夫を擁護する意見も、見たところ3分の1くらいありました。「育休を取る男性は稀で、相談できるパパ友が少ない。ママ友と相談せずにワンオペで育児をやれというのですか」「批判されては男性の育休推進なんて、とうてい無理ですね」という意見に代表されます。

川上さん「ママ友同士やパパ友同士であれば不自由なくできることが、パパ友とママ友という組み合わせの時だけ制約があるというのは、男性の育休取得者が圧倒的に少ない状況に鑑みて、パパにとってとてもやりづらい環境であることは間違いありません。育児を任せた以上は、夫を信頼して任せきるべきという考え方も、あって当然だと思います」
子ども同士でテレビゲームで遊びたい(写真はイメージ)
子ども同士でテレビゲームで遊びたい(写真はイメージ)

――子ども同士が遊びたいという意思を尊重すべきだ、という意見もありました。しかも、ママ同士ならよくて、パパとママなら家で遊んではいけないのか、と。投稿者によると、夫とママ友の子どもたちは、家でテレビゲームをするケースでした。

川上さん「男性の育休取得者がまだ少ないため、パパ友とママ友という組み合わせに対して、どう受け止めてよいのか戸惑いが生じやすいのだと思います。親の都合で子ども同士の関係性に悪影響が出てしまうのは避けたいところですが、不信感を持ちながら、子どものためだと自分に言い聞かせてガマンし続けるのもつらいはずです。
仮に、男性と女性の育休取得率が半々ぐらいになったら、パパ友とママ友という組み合わせで子どもを遊ばせる光景は、当たり前のものになるでしょう。そのなかには、夫を信頼して任せきる妻も一定数いるので、パパ友とママ友が互いの家を行き来して、子どもを遊ばせるケースも増えるはずです。そのような状況になれば、パパ友とママ友の組み合わせに対して、今ほどは戸惑いを感じなくなるのかもしれません」

――投稿者自身も「私が育休を取るべきという指摘は刺さりました」「私は男性育休黎明期の敵役になってしまった」と戸惑いの弁を述べています。その一方で、相手のママやその夫に話そうと思うとも書いており、感情が揺れています。

川上さん「投稿者さん自身が、今の状況をどう受け止めていいのか戸惑っていることがよく伝わってきます。そしておそらく、夫が育休を取得したほかの家庭においても起こりうることです。男性の育休取得者がまだ少ないからこそ、投稿者さんの悩みは貴重な問題提起になっていると思います。
人は感情の生き物である以上、夫を疑う気持ちが出てしまうのも自然なことです。一方で、夫を信じて任せる人もいます。それは、どちらが正しいかということではなく、個々の考え方や価値観などの違いです。
たとえば、当事者が、Aさんの家庭とは阿吽(あうん)の呼吸で上手く対処できても、Bさんの家庭とは上手くできない、ということも起きてしまいます。用意された正解がないことを前提に、夫婦間および家庭間で、可能な限り意見交換しながら、落ち着くべきかたちを個々につくりあげていくものなのだと思います」

子どもファーストで話し合ってほしい

子どもファーストで考えて(写真はイメージ)
子どもファーストで考えて(写真はイメージ)

――なるほど、難しいですね。川上さんが投稿者や夫にアドバイスするとしたら、どんなことを呼びかけたいですか。

川上さん「投稿者さんはつらいお気持ちだと思いますし、濡れ衣であれば投稿者さんの夫もママ友も辛いお気持ちでしょう。それはそれで感情のケアは必要だと思いますが、第一に考えるべきは、子どもにとってベストな環境をどう構築していくかだと思います。そのうえで、投稿者さんと夫の双方の考えや感情も踏まえて、無理なく協力し合える方法を導き出す必要があります。
ひょっとすると、夫としてはママ友を家に入れたことで不信感を持たれたことが心外なのかもしれません。でも、投稿者さんに生じた感情へのケアは必要だと思います。一方、投稿者さんが過剰に夫を疑ってしまった可能性も考えられます。その場合、夫の気持ちに寄り添い、自分の気持ちも理解してもらったうえで、お互いに無理が生じない対処方法を協力して見つけていく姿勢が必要です。お子さんに見えないところで、ご夫婦で話し合っていただきたいと思います」

――つまり、子どもファーストで考えていこうということですね。

川上さん「そのとおりです。育児をめぐって起きていることだけに、お子さんに対してどうしてあげたいかという観点がもっと中心に来るべきなのではないかと感じました。
もし夫にやましい気持ちがあったとすれば、夫にはお子さんを思いやる観点が欠落していたのだと思います。一方、投稿者さんが夫の言動を不審に思う気持ちはとてもつらいものだとお察ししますが、もしその疑いが事実を見抜いていたのだとしても、お子さんには関係ありません。
それはあくまで夫婦の間の問題です。投稿には、子どもが『やめて!』といっても夜中の2時過ぎまで口論している様子も書かれていました。その様子を見たお子さんの悲しみは、推し量るに余りあります。お子さんの目線に立ち、親として何をなすべきかという観点から、ご夫婦ともに振る舞っていただきたいです。
投稿内容から、登場されている方々すべてが辛い思いをされていると感じます。しかし、一番辛い思いをしているのは、ご夫婦がケンカする姿を目の前で見せられているお子さんたちなのではないでしょうか」

(福田和郎)