J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「同じ課なのにメールで連絡」...これは失礼?普通? 女性の投稿に「効率の問題」「対話は必要」賛否激論 専門家の裁定は?(2)

   「同じ課の同僚にメールで連絡し合うのは、そんなに失礼?」という女性の投稿が炎上している。

   女性はメールで連絡したほうが、効率的で間違いがないと信じてきたが、同僚の1人が「メールを送られると、自分たちはこの程度の関係なのかと、いい気持ちがしない」と言い出した。

   そこで課内では「メールではなく、顔を合わせたコミュニケーションを心がけ、メールを送った場合はひと声かける」というルールが決まった。

   女性は「バカバカしい!」と怒りを抑えきれない。この投稿に対し、「これだから日本はIT後進国と言われる」「いや、仲間同士の対話は大切」と、賛否大激論だ。専門家の裁定は?

  • メールで送られるといい気持ちがしないという人も(写真はイメージ)
    メールで送られるといい気持ちがしないという人も(写真はイメージ)
  • メールで送られるといい気持ちがしないという人も(写真はイメージ)

「チャットで『今話せるか』と聞いた後、すぐ電話する」

   <同じ課なのにメールで連絡」...これは失礼?普通? 女性の投稿に「効率の問題」「対話は必要」賛否激論 専門家の裁定は?(1)>の続きです。

   今回の「メール論争」、さまざまな意見が寄せられているが、外国人ビジネスパーソンはどうしているのだろうか。外資系企業で働くという人から、こんな指摘があった。

「私はずっと外資系で働いておりますが、外国人はチャットで『いま話せるか?』と聞いた後、すぐオンラインコールしてくるので直接話します。メールは、フォローで話した後に送られてくることも。(中略)私が図解入りの凝ったメールで相手にひと目で分かりやすいメールを出しても、外国人はすぐオンラインコールで確認してきます」

   そして、こんな意見も出ていた。

「この違いは何か考えたのですが、コミュニケーションの重要性の認識でしょうね。『日本は(IT面で)遅れている』という趣旨の回答がありましたが、私はそうは思いません」
声かけをしないとメールを読み忘れて、あわてるケースも(写真はイメージ)
声かけをしないとメールを読み忘れて、あわてるケースも(写真はイメージ)

   専門家はどう見るか。J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、今回の職場のメールをめぐる投稿をめぐる論争について、働き方問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに意見を求めた。

――今回の投稿と回答者たちのさまざまな意見を読み、率直にどう思いましたか。

川上敬太郎さん「職場でのコミュニケーション手段はどんどん多様になってきています。かつては対面と電話に手紙とFAXくらいしかありませんでしたが、インターネットの普及でEメールや社内イントラネットの掲示板などが加わりました。さらに、スマートホンが普及するにつれてコミュニケーション手段がオンラインツールへと移るスピードが加速していきました。
プライベートではLINE、職場ではSlackなどビジネスチャットの利用が広がり、文字を打たなくてもスタンプで返すといった文化も生まれ、コミュニケーションが気軽に手軽に行えるようになってきました。今後はメタバースに移っていくと言われています。
そんな時代の移り変わりの中で、適切なコミュニケーションの取り方の考え方が人によって異なってしまうのは仕方ないことだと思います。一度もSNSを利用したこともない人もいれば、面識のない人と毎日オンラインゲームを通じてチャットで会話している人もいる中で、コミュニケーションの常識観に相容れないものが出てしまうのも当然です。 どちらが正しいということではなく、投稿者さんのお悩みも回答者さんたちのアドバイスも、それぞれにもっともだと感じました」

「メール派は効率性、対面派は心と情緒を求める」

リモートワークが職場のコミュニケーションのあり方を変えた(写真はイメージ)
リモートワークが職場のコミュニケーションのあり方を変えた(写真はイメージ)

――論争の背景には、「職場コミュニケーション」のあり方の問題があると思います。単純に分けると、メールによる連絡・相談と対面による話し合いのどちらがよいのかですが、川上さんが研究顧問をされている働く女性の実態を調べる「しゅふJOB総研」で、こうしたテーマを調査したことはありますか。

川上さん「メールはオンラインツールを利用したコミュニケーションで、対面はリアルな場で行うコミュニケーションです。社会生活における場面には、オンラインのほうが適していると思われるものもあれば、そうでないと思われるものもあります。
そのような観点から、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層に、次の調査をしたことがあります。『あなたの生活周りで、オンライン化が進んで欲しいと思うものはありますか』と尋ねたところ、最も多かったのは『行政機関の各種手続き』でした。一方、逆に『オンライン化を進めないほうがよいと思うものはありますか』と尋ねると、『結婚式などの慶事』が最も多くなりました。
◇オンライン化が進んで欲しいもの、進めない方が良いもの

『行政機関の各種手続き』は、できる限り手間を省いて効率的に済ませたいもの。それに対して、『結婚式などの慶事』は、リアルな場を共有すること自体に意義があり、効率性よりも人としての心や情緒などが重んじられるものです」

――たしかにそうですね。

川上さん「それで、『オンライン化して欲しいもの』と『オンライン化して欲しくないもの』の2つの傾向の違いを仕事上のコミュニケーション手法に当てはめてみると、効率性を求めるだけであれば、メールやチャットはおおむね目的を満たすと思います。一方、コミュニケーションに心や情緒も求めたい場合は、メールだけでは不十分で、対面であることが重んじられるのだと思います。
これらは、メール派と対面派の大まかな傾向として推察される1つの要素に過ぎませんが、職場の中で効率性を求める人と、心や情緒を求める人とが混在していれば、どうしても葛藤は生じてしまうことになります」

「メール=事務的で冷たい」という先入観は間違い

打ち合わせは面と向かってしたい人も多い(写真はイメージ)
打ち合わせは面と向かってしたい人も多い(写真はイメージ)

――なるほど。効率性を最優先する点では投稿者の立場は明快ですね。心や情緒を求める立場の人がいることによって作られた「メールを送ったら声がけをする」などの職場ルールに対しても、「バカバカしい」と切って捨てています。

川上さん「仕事の効率性を考えると、投稿者さんがおっしゃる通り『メールを送ったら声かけをする』というルールは無駄が多いと感じます。しかし、投稿者さんの職場は、効率性よりも心や情緒を重んじる判断をしたということなのではないでしょうか。その点、コミュニケーションに求めるものが、投稿者さんとは異なっているようです。
ただ、効率性を重んじる姿勢を冷たく感じる人もいるようですが、メールだと心や情緒が伝わらないかというと、必ずしもそうとも言い切れません。メールであっても、受け手の気持ちを汲み取り、思いを込めて書かれた文章であれば、十分心や情緒が伝わります。メール=事務的で冷たいもの、という先入観が、受け手側に不必要に拒絶感をもたらしている可能性もあります」

――投稿者の意見には若い人を中心に「100%大賛成!」という人が多いようです。なかには「コミュニケーションの問題ではなく、効率の問題」「文句を言うのは50代以上」「こういう議論が起こる時点で、日本はIT後進国」といった、やけに「挑発的」と思える意見もありました。何だか、世代間の対立さえ感じます。

川上さん「世の中の大きな流れとしては、儀礼的で手間がかかるコミュニケーション手法は排除されていき、手軽にすばやく意思を伝える方向へと向かっているように感じます。
しかし、コミュニケーションの目的は『伝える』ことではなく『伝わる』ことにあります。伝える側と受け取る側が、ともに効率性を重んじる人同士であれば、スタンプだけのやりとりであっても、すんなりと『伝わる』はずです。
しかし、受け取る側が、手軽な伝達手段を快く思わない人であれば、感情の壁が先立って、きちんと伝わらない可能性があります。伝えたいことが『伝わる』ようにするためには、受け取る側の考え方や価値観、志向などを考慮して、伝える側が適切な伝達手段を選ぶことが望ましいのではないでしょうか」

   今回の「メール論争」、川上さんのアドバイスも熱を帯びました――。<「同じ課なのにメールで連絡」...これは失礼?普通? 女性の投稿に「効率の問題」「対話は必要」賛否激論 専門家の裁定は?(3)>にまだまだ続きます。

(福田和郎)