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「時短勤務、昇格できないのは不公平!」女性の投稿に大激論 「退社後、部下がトラブル起こしたら責任とれる?」「私、時短でも昇格した」...専門家に聞いた(2)

   「時短勤務者が昇格できないのは不公平!」。こんな女性の投稿が炎上気味だ。投稿者は勤続19年、会社に尽くしてきたという自負がある。

   しかし後輩が次々と昇格するのに、自分を含めた時短勤務者は役職につけないでいる。「時短は人数にカウントしていない」とまで職場で言われて怒り心頭だ。

   この投稿には「昇格したければフルタイムで働いたら?」「先に退社した後に職場でトラブルがあったら、責任とれるの?」という反発がある一方、「私は時短でも昇格できた!」という応援エールも寄せられ、論争がアツイ。専門家の裁定は――。

  • 時短だと昇格難しい?(写真はイメージ)
    時短だと昇格難しい?(写真はイメージ)
  • 時短だと昇格難しい?(写真はイメージ)

「寛容なだけの対応、子育てママのパフォーマンス悪化」の事例も

   <「時短勤務、昇格できないのは不公平!」女性の投稿に大激論 「退社後、部下がトラブル起こしたら責任とれる?」「私、時短でも昇格した」...専門家に聞いた(1)>の続きです。

――論争の背景には、時短勤務者がいったい昇格できるのか、つまり管理職につけるのかという働き方の問題がありますが、川上さんが研究顧問をされている働く主婦層の実態をしらべている『しゅふJOB総研』で、このテーマに関係した調査をしたことがありますか。

川上敬太郎さん「家庭の制約がある主婦層に上司は仕事の成果を求めるべきかというテーマで、『父親であることを楽しもう』という活動をしているNPO法人ファザーリング・ジャパンと合同で調査を行ったことがあります。

◇家庭の制約がある主婦層に上司は仕事の成果を求めるべきか

その結果、上司側も主婦層側も、ともに『成果を求めるべきだ』と思っている人が9割前後に及びました。フリーコメントを見ると、主婦層から『時短では誰よりも集中して効率よくやることを求められて当然』『成果を求められない存在なんて社員として在籍している理由がない』といった意見がありました。
また、上司側からも『弊社には、寛容なだけの対応をした子育てママのパフォーマンスが大きく悪化した事例がある』『仕事は成果を求めるもの。個々のパフォーマンスを最大限に高めるよう努力すべきという点では、子育て中や介護中などのワケあり社員であろうとそうでなかろうと、同じことだ』といった意見が寄せられました。
職場では、家庭からの制約を受けるか否かに関わらず、仕事の成果を求める意識が働いていると思います。その前提に立つと、投稿内容を見る限り、昇格を望む投稿者さんが言及しているのは勤務年数に関することであり、どんな成果を出したのかが示されていないことには違和感を覚えます」

「社長は最後まで職場に残らなければいけないの?」

全社員が部下の社長は最後まで残業しないといけない?(写真はイメージ)
全社員が部下の社長は最後まで残業しないといけない?(写真はイメージ)

――回答者の多くから「時短の人が昇格したい望むことにビックリ」「昇格したければフルタイムで」といった反発が巻き起こっています。

川上さん「いずれも『時短勤務だから昇格対象ではない』という考え方が前提になっている意見だと感じます。しかし、仮に大きな成果を出している人であったとしても、時短勤務という理由だけで昇格できないとしたらどうでしょうか。多くの職場ではかねて、勤務時間の長さを重視するきらいがありました。しかし、現在においては、そのような考え方が支配している職場では、生産性を上げることは難しいように思います。
一方、時短勤務者に対する厳しい意見が多数見られるのは、時短勤務者が早く帰ることによって他社員に業務のしわ寄せがいってしまい、負担がかかる状態があちこちの職場で起きていることの表れなのではないかと思います。時短勤務者は周囲に迷惑をかけている、というイメージも、『時短勤務だから昇格対象ではない』という前提に立った回答につながりやすい一因かもしれません」

――批判的な意見の中で、多いのは「昇格するということは管理職になること。あなたが先に帰った後に職場にトラブルが起こったら、部下だけに任せるのか。無責任では」という声です。

川上さん「昇格して上司になった際に責務が果たせるか、という心配からくるアドバイスなのだと思います。しかしながら、逆に、上司が遅くまで職場にいると、部下は遠慮して帰りづらくなるという場合もあります。お付き合い残業で長時間労働に陥る職場の典型的なパターンの一つです。
また、昇格して部下ができると、早く帰宅できなくなるのだとしたら、社内に部下しかいない社長は、最後まで職場に残っていなければなりません。それは、組織体制として柔軟性に欠けていて、適切とは言えません。むしろ、上司が先に帰宅しても対処できる体制を構築することのほうが大切なのではないでしょうか」

「時短」への不利益な取り扱いは育児・介護休業法違反

気持ちよく働ける新職場を探すのも方法だ(写真はイメージ)
気持ちよく働ける新職場を探すのも方法だ(写真はイメージ)

――なるほど。ところで、育児・介護休業法には「事業主は子育て中の労働者が所定労働時間の短縮措置(時短勤務)などを取っていることを理由に、不利益な取り扱いをしてはいけない」と定められています。ということは、時短だからといって「昇格」を認めないのは法令違反ということになるのでしょうか。

川上さん「仕事で相応の成果を出すなど、昇格条件に当てはまっているにも関わらず、時短勤務という理由だけで昇格させない、などの不利益を被っているようであれば、不当な扱いを受けていると判断される可能性があると思います。
投稿者さんの職場では、ほかの時短勤務者も昇格できていないようです。仕事の成果いかんに関わらず、一定の勤務年数を経ると昇格できることが通例化しているのであれば、時短勤務という理由だけで不当に扱われてしまっていることも考えられそうです」

――たしかに、「うちの会社では時短の人でも昇格できる」という意見がいくつかありました。また、実際に「私は時短で昇格した!」という人たちの生々しい奮闘の体験談も寄せられました。

川上さん「時短でも昇格できる職場は、勤務時間の長短ではなく、成果や能力などの要素も加味して、昇格判断しているのだと思います。もし投稿者さんがそのような職場で昇格がかなわないでいるとしたら、『時短勤務だから昇格対象ではない』ということではなく、職場としては『昇格対象でない人が時短勤務している』と受け止めている可能性があると思います。
ただ、それはあくまでその職場における判断です。投稿者さんご自身がその判断に納得できるのであれば、職場の昇格基準に見合うよう対処策を考える必要があります。一方、職場の判断に納得できないのであれば、ご自身の考え方に近い職場を新たに探すことも一つの方法だと思います」

「気持ちよく働ける新たな職場を探すことも解決策」

勤務時間の長さを美徳とする時代は終わった(写真はイメージ)
勤務時間の長さを美徳とする時代は終わった(写真はイメージ)

――つまり、転職のススメですね。川上さんならズバリ、投稿者にどうアドバイスをしますか。今後、職場でどう働いていったらよいでしょうか。

川上さん「投稿者さんが昇格に相応しい成果を上げているにも関わらず昇格できないのであれば、納得感が得られなくて当然です。あるいは、一定の勤務年数さえあれば昇格できるはずなのに、時短勤務だという理由だけで不利益を被っていると感じるなら、職場に対する不信感につながるかと思います。
納得できない気持ちや不信感はストレスとなって蓄積していくことになりかねません。職場に対して、ご自身の意見を主張して改善を迫ることも一つの方法だと思います。ただ、それはさらなるストレスにもなります。もし、気持ちの折り合いが上手くつけられないようであれば、気持ちよく働ける新たな職場を探すことも視野に入れられてはどうかと思います。
一方で、職場としては昇格可否の理由をきちんと説明したほうがよいと思います。もし成果や能力が不足して昇格しないということであれば、何がどれだけ不足しているのかを明示することで、投稿者さんとしては目標を具体的に設定することができます。昇格しない理由が曖昧なまま納得感なく働いたところで、パフォーマンスに良い影響を及ぼすはずはなく、職場にとっても投稿者さんにとってもプラスにはなりません。
また、職場側が昇格しない理由を明示できず、時短勤務であることのみを理由に不利益となる取り扱いをしているのであれば、法の主旨に反することになるため是正指導の対象になることも考えられます」

勤務時間の長さを褒める言葉...ブラック企業の象徴

気持ちよく働けるように(写真はイメージ)
気持ちよく働けるように(写真はイメージ)

――職場側の曖昧な対応にも問題があるということですね。

川上さん「これまで日本の職場では、勤務時間が長いことが美徳とされてきました。『夜遅くまで頑張っている』『土日も出勤している』『家に帰っても仕事している』などが誉め言葉として使われてきました。しかし、働き方改革が推進されて、長時間労働是正、生産性向上、ワークライフバランスの推進といった考え方に世の中の価値観が刷新されていくなかで、過去の誉め言葉は、ブラック企業を象徴する言葉へと変わってきています。
『時短勤務だから昇格対象ではない』という考え方も、そのような、古き長時間労働礼賛時代の名残だと感じます。勤務時間の長さありきではなく、成果ありきの考え方へとシフトチェンジする職場が増えれば、投稿者さんと同様の悩みを抱える人は減少していくのではないでしょうか」

(福田和郎)