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インフレと金融引き締めに左右された1年...2022年株式市場を振り返る【前編】(児山将)

   学生のみなさんとともに、およそ半年にわたって挑戦してきた「シューカツに使える企業分析バトル カブ大学対抗戦 Season4」。

   締めくくりとして、当企画のコーディネーターを務めたメディアディレクター、フリーランス投資家として活躍する児山将さんから、2022年の株式市場を中心に、相場を振り返ってもらった。今回の寄稿記事【前編】では、2022年の全体感、および、春~夏の振り返りをお届けする。

米国の急速な利上げから為替は大きく円安へ、日経平均の上昇要因に

   2022年の相場のテーマは「インフレ」だったと言えるのではないでしょうか。ロシアによるウクライナ侵攻も、世界的な政策金利の利上げも、産油国による減産も全てインフレが関係します。

   そして今年は、2020年と2021年に行った世界的で大規模な金融緩和のツケを払う年でした。

   年の序盤からロシアによるウクライナの侵攻が起こり、原油をはじめ天然ガスなどの商品や小麦などの食料品価格まで値上がりが波及。

   インフレを押さえ込むために、金融引き締めを行わないといけないものの、物価上昇圧力に拍車が掛かる余計な材料が出てしまったせいで、各国中央銀行は非常に難しいかじ取りを迫られることになりました。

   金融引き締めを行うと、インフレを抑える代わりに、景気悪化の代償を支払う必要があります。通常、利上げは景気が良い時に行うのですが、今回はそうではありません。利上げによりインフレは押さえ込めますが、景気悪化は目に見えてしまいます。

   しかし、インフレを押さえ込まなければ、やはり景気は悪化してしまう...。どちらに進んでも茨の道なのです。そのため、中央銀行はどちらかを犠牲にしなければならなくなりました。

   その結果、主要国は「経済」を犠牲にし、徹底してインフレと戦う姿勢を見せたのです。

   これが、株式市場の上値を重くする要因となりました。

   しかし、そもそも米国は、コロナ渦で大量の資金を市中に供給し、経済を下支えしました。

●米国が行った経済対策の一部
緊急経済安定化法案  ・・・ 約7000億ドルもの公的資金を投入
アメリカ復興・再投資法・・・ 総額7870億ドルに上る景気刺激対策
新型コロナウイルス対策・・・ 約5.9兆ドル

   バイデン政権は、就任直後の2021年3月、新型コロナウイルス対策を軸とした「米国救済計画」を成立させました。そして、総額1.9兆ドルもの短期景気対策を、2年以内に集中投下することとなりました。

   これらのばら撒きを行った結果、2021年後半にジワリとインフレの足音が聞こえはじめ、FRB(米連邦準備制度理事会)の要人はそれに警鐘を鳴らし始めていました。

   しかしながら、FRBトップであるパウエル議長は「インフレは一時的」という発言を繰り返し、利上げ時期を先延ばしにし、経済を優先するというスタンスを見せていました。

   ただ、同時期に多くのアナリストが「FRBは利上げに転じ、早期にインフレ対策をすべきだ」という発信を行っていました。結果的に、FRBは利上げ時期を見誤り、6月には9%台というインフレ率を叩きだしてしまう結果となってしまいました。

   これにより、利上げペースを早めざるを得なくなったのです。そして、利上げ幅も巡航速度である0.25%から、7月には0.75%も引き上げることになってしまいました。株式市場が打ちのめされるのも仕方ありません。

   急速な利上げにより、為替は大きく円安に進みました。これまで、円安は日経平均の上昇要因でした。しかし、米国株が売られるために上昇しなくなったという転換期にも差し掛かってしまいました。

注目されたテーマは「円安」「ウクライナ危機」「アフターコロナ」

   では、対抗戦参加者の個別銘柄を振り返ってみたいと思います。

   注目されていたテーマとしては、「円安」、「ウクライナ危機」、「アフターコロナ」でしょうか。

   そのなかでも、銘柄選定が光ったのはヤマハ発動機(7272)を選んだ北海道大学のおふたり。11月の決算後には、予想した日から25%ほど上昇しました。主な選定理由は円安恩恵とのことでしたが、PER(株価収益率)とROE(自己資本利益率)で本田技研工業とスズキの3社で比較し、その「最適解」を導いた相場となりました。

   ふた相場ほど終えた日本製鉄(5410)のレンジ下限で買い、キッコーマン(2801)では、好決算を読み40%ほど上昇を取るなど、分析力の高さが光りました。

   島津製作所は惜しく、好調な受注から第1四半期は過去最高水準を更新したものの、前年同期比で2ケタ減益となり、中国ロックダウンの影響が響きました。

   アフターコロナとしては、JR西日本(9021)とANAHD(9202)の交通インフラの2つが2割以上の堅調な値動きに。政府の政策に加え、足元の業績やセグメント別の動向を読んだうえで、コロナ規制緩和の波に乗りました。

   円安×半導体というテーマは厳しい状況でした。コロナ禍で2年先を織り込んだとも言われていた半導体市況。2023年には需要が減少するという観測が徐々に高まり、関連銘柄は弱含みやすくなったのかもしれません。(児山将)

   <市場参加者が反応する「経済指標」に変化あった1年...2022年株式市場を振り返る【後編】(児山将)>に続きます。



【プロフィール】
児山 将(こやま・しょう)


2009年の大学4年時にFXをはじめ、一度は飲食店の店長として働くも相場に関りたく金融メディア大手に就職。記事執筆とサイトのディレクションを行う。FX以外にも、株、指数、オプション、商品、仮想通貨など多岐に渡る商品を取引。現在はフリーランスとしてサイト制作やコンテンツ制作を行いながら個人投資家として活動する。
・Twitter:児山 将 @goahead5055
・初心者でもできる、ビットコイン・イーサリアム投資情報サイト:https://btc-eth.jp/