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OJTリーダーに抜擢したのに、自信がないと言う部下...どう励ます?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE20(後編)】(前川孝雄)

   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE20」では、新入社員の教育を担うOJTリーダーに抜擢したのに、自信がないと言う部下のケースを取り上げます。

「自己改革」と「共育」の視点・姿勢を持つ

   <OJTリーダーに抜擢したのに、自信がないと言う部下...どう励ます?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE20(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   大きな変化の時代。業界・業種を問わず、新たなビジネスモデルや働き方の模索が求められています。人材育成においても当然、変化が求められています。特に、自分のキャリア形成に敏感で、社会や地域への貢献意欲が高い優秀な若手ほど、将来ビジョンと職場の現状を注視しています。

   一方、ベテランやリーダーは経験を積むほどに、これまでの仕事のやり方に染まり切り、課題意識が薄れがちです。よって、リーダー自らが社会や顧客の変化を見据え、組織や仕事の改革意欲を強く持つことが必要です。

   また、若手の素朴な疑問やアイディアのなかに、組織側が改めるべき課題がある可能性も。メンバーの質問や意見に謙虚に耳を傾け、意見や提案は前向きに取り入れる姿勢を持ちましょう。一緒に職場の未来を築くために、共に成長しようとする「共育」の姿勢が求められるのです。

「働きがい」(思いと思いやり)へと紐づける

   メンバーの仕事へのモチベーション向上を図るには、仕事の目的や意義、進め方について対話しながら、「働きがい」に紐づけることも重要です。

   働きがいとは、仕事と職場への「思い」と「思いやり」を追究し、実現することから、得られるものと言えます。「思い」とは、この仕事には、顧客や社会に貢献する――このような意義・価値があるという仕事に込めた思い。「思いやり」とは、思いの達成を目指す職場で、互いに尊重し合い、共に成長していきたいという仲間への思いやりです。

   一緒に進める仕事を働きがいに紐づけるには、

「○○さんと担うこの仕事は、○○の理由で当社の経営理念にも合致し、お客様にも喜ばれる価値あるもの。あなたの〇〇の成長にもつながる貴重な機会でもあり、ぜひ一緒に取り組み、達成したい」

と伝えるのです。

   相手に働きがいを伝えるには、自分自身が働きがいを実感し、自分の言葉で語れることが不可欠。ぜひ自分にとっての働きがいとは何かを内省してみてください。

職権に頼り切らない真のリーダーシップを!

   人を育成する役割を担うことは、実は、自分が一番成長できるチャンスです。

   人に教えるためには、自分のなかの暗黙知を言語化しなくてはなりません。しかも、それを形式知に変え、相手に伝えるための概念化能力や論理的思考が鍛えられます。また、相手の話を聴き理解し、こちらの意図をわかりやすく伝えるコミュニケーション力も必要です。

   日々、こうした役割を果たすことは、自分自身のリーダーシップを磨き、成長できるまたとない機会なのです。つまり、OJTリーダーに任命されたからリーダーシップが発揮できるのではありません。任命されてからの試行錯誤によって、徐々にリーダーシップが鍛えられていくのです。

   『ビジョナリーカンパニー』シリーズで有名なジム・コリンズは、『ビジョナリーカンパニーZERO』のなかで、リーダーシップをこう定義しています。

「真のリーダーシップとは、従わない自由があるにもかかわらず、人々が付いてくることだ」
「リーダーシップとは、部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である」

   真のリーダーシップは、職権によってではなく、信頼関係、共育、働きがいなどをメンバーと育むなかで発揮され、行使されるのです。

   私は、リーダーシップは職位や権限で人の体を動かすのではなく、人を納得させて「心を動かす力」と考えています。実は、権限を持つ管理職や経営者ほど、意識して鍛えないと衰えかねないものでもあるのです。

   すでに上司である皆さんも、真のリーダーシップ=「本物の上司力」を常に磨き続けてください。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。