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日銀新総裁のもと、日本経済どう変わる?...東洋経済「日銀 宴の終焉」、ダイヤモンド「超・階級社会」、エコノミスト「信用金庫」を特集

   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

日銀の異次元緩和でも、実体経済変わらなかった

   1月16日発売の「週刊東洋経済」(2023年1月21日号)の特集は、「異次元緩和から戸締りの時代へ 日銀 宴の終焉」。

   4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁が推し進めた「異次元緩和」という10年の宴は終わり、金融政策は正常化への舵を切ろうとしている。この壮大な社会実験がもたらしたものを検証し、今後のマーケット、日本経済の行方を展望している。

   元日銀理事で現在はエコノミストとして活躍する3人が、黒田体制の「功罪」に斬り込んだ鼎談が興味深い。東京財団政策研究所主席研究員の早川英男氏は「景気に対して悲観的だった国民の心理が改善したことが大きかった」と評価する一方で、「リアルな経済指標では大した成果はなかった」と語っている。

   みずほリサーチ&テクノロジーズ、エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏も「変わったのは空気だけで実体経済はあまり変わらなかった。アベノミクス景気は戦後最低の成長率だった。物価目標2%も達成できなかった」と手厳しい評価だ。

   金融緩和の出口戦略について、門間氏は「マイナス金利も含めたイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃が最大の課題で、最も出口が難しい」と語っている。

   一方、ちばぎん総合研究所な社長の前田英治氏は「新総裁は、まずは異次元緩和の10年、さらにはそれ以前の政策を含めた20年スパンの総括検証をすべきだと思う。よかった点、悪かった点、2%目標の評価も含めて検証してもらいたい。そのうえでYCCやマイナス金利をやめるが、低金利政策はしばらく続けるというのがきれいな形だ」と総括する。

   米国をはじめ世界中の中央銀行が急速な利上げに動く中、日本銀行だけが超低金利政策に固執した原因として、YCC(長短金利操作)という異例の政策を採用したことが挙げられる。マイナス金利も、長期金利の固定も、主要先進国で採用しているのは日本だけだ。

   「日銀新総裁で経済どうなる?」という解説記事で、東短リサーチ社長・チーフエコノミストの加藤出氏は、「次期日銀総裁は、YCCを終了させて、市場が長期金利を決める世界に戻していくと思われる。ただし日本の国債発行額は膨大で、かつ急激な長期金利上昇は金融機関の経営に打撃をもたらしうる」と懸念する。

   他のエコノミストも「総裁が誰になっても、基本的に金融政策は正常化に向かう」(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)、「春闘の結果がどうであれ政策転換は進む」(熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミスト)と見ている。

◆ポスト黒田、有力候補の2人は?

   ポスト黒田の新総裁候補についての予想も。

   「複雑な日銀の金融政策を理解し、内外と細かい調整ができ、情報発信ができる人」として、日銀プロパーが有力候補に挙げられている。

   副総裁の雨宮正佳氏と、副総裁を経て大和総研理事長の中曽宏氏の2人だ。

   岸田首相はすでに人選を終えていると見られ、2月にも具体名が国会に提示される見通しだという。 どの候補者が新総裁に就任するかでも市場の反応は異なると見られ、異次元緩和の副作用を指摘してきた中曽氏が就任したほうが株安になる、と予想する関係者の声を紹介している。

   超緩和の影響を受けてきた主要業界の本音も探っている。

   銀行業界は金利引き上げで恩恵が享受できると、歓迎する声が多いようだ。一方、証券業界では、日銀がETF(上場投資信託)の買い入れや保有に関する政策を変えれば、報酬が減り、向かい風になると見ている。

   金融緩和による「カネ余り」で需要が拡大してきた不動産業界では、利上げが活況に水を差すのではと危惧する声があるようだ。

コロナ禍、全階級で年収が激減

   「週刊ダイヤモンド」(2023年1月21日号)の特集は、「超・階級社会 貧困ニッポンの断末魔」。アベノミクスは「勝ち組」と「負け組」をはっきりと分け、日本を1億総下流社会へと変えたというのだ。「貧国ニッポン」の実像とは。

   拡大した格差が完全に固定化する「超・階級社会」を迎えようとしている、と指摘する。それを招くのは、「低成長」「低賃金」「弱すぎる円」「貿易赤字の常態化」の四重苦だと説明している。

   アベノミクスにより、全国民の約1割に当たる上級国民は資産を増やした一方で、中級国民、下級国民は資産を減らし、富める者はより富み、貧しい者はより貧しくなったというのだ。

   さらに、コロナ禍のこの数年において、全階級で年収が激減しているという衝撃データを公表している。橋本健二・早稲田大学人間科学学術院教授らが実施した「三大都市圏調査」で、資本家階級、新中間階級(管理職など)、正規労働者階級、旧中間階級(自営業者など)、アンダークラス(パート主婦を除く非正規労働者)、パート主婦、無職、専業主婦の8つに分類した4万3820人のデータを分析。

   2019年と2021年の世帯平均年収を比較したところ、いずれの階級でも減少しており、特に旧中間層ではマイナス12.8%、アンダークラスではマイナス8.0%と減少が大きかった。

   コロナショックが階級格差をさらに広げたと見ている。

   緊急事態宣言により、小売店や飲食店などの自営業者が営業自粛に追い込まれた。それらの業種には、経営者として旧中間階級の人材が、スタッフとしてアンダークラスの非正規労働者が従事しているからだ。

   21年の貧困率で見ると、無職39.9%、アンダークラス36.6%、旧中間階級20.6%という厳しい結果に。社会的弱者にしわ寄せがいったことがわかる。橋本教授は「一億総中流は完全に消失。階級間格差は拡大している」と話している。

◆「日本」は外国人の爆買いのターゲットに

   貧しくなった日本は外国人の爆買いのターゲットとなっている。対象は高級マンションなどの不動産だけではなく、賃金が安い「日本人」すらも、お買い得なのだという。

   外資系企業が「安過ぎ日本人」を爆買いしようとする動きを取り上げている。最もニーズがあるのは30~40代の部課長級の人材。とりわけ、テック系人材の引き合いが強いという。

   金融システム開発では年収500万円から1100万円へ、IT営業では900万円から1700万円へと日系から外資系への転職で年収が上がった例を紹介している。トヨタ自動車や三菱商事など日本を代表する企業にも触手が伸びているという。

   東京都心の5億円超のマンションも外国人と日本人富裕層に売れると、続々売り出されている。「最終的には外国人と日本人の富裕層が買ってくれるから、マンション価格は下がらないと皆思っている」と大手デベロッパー。

   今後、東京都心に住めるのは富裕層と外国人だけという「階級社会」になりそうだ。

コロナ禍でメインバンクシェア伸ばした信用金庫

   「週刊エコノミスト」(2023年1月24日号)の特集は、「本当に強い信用金庫」。2022年3月期の全254信金のランキングを掲載。信用金庫がいかに地域経済を支えるのかリポートしている。

   信金発のスタートアップ企業として、カレーハウス専門店「CoCo壱番屋」(ココイチ)で知られる壱番屋、引越し業界最大手のサカイ引越センターを取り上げている。壱番屋は岐阜信金(岐阜)、サカイ引越センターは大阪信金(大阪)がそれぞれ最初に融資し、事業資金の要望に応えてきた。

   信用金庫は地域の中小・零細企業や住民が会員となる協同組織金融機関であり、従業員数300人かつ資本金9億円以上の企業には融資できない。信金との取引を「卒業」するのは企業が成長した証しでもあるが、サカイ引越センターは大阪信金とは「いろいろ教えてもらう関係が今も続いている」という。

   独自の創業支援の例として、移住・創業支援を行う吉備信金(岡山)、女性向け企業支援塾を展開する高松信金(香川)、街歩き創業セミナーを行う埼玉県信金(埼玉)などを紹介している。

   ランキングの総資産トップは京都中央(京都)で、6.6兆円超と地銀中位行並みだ。

   以下、城南(東京)、岡崎(愛知)、京都(京都)、多摩(東京)、尼崎(兵庫)と続く。総資産1兆円超の「メガ信金」は51信金で、長野(長野)、川口(埼玉)、但陽(兵庫)の3信金が「メガ信金」入りした。一方、1000億円未満も13信金あり、二極化が進んでいる。

   コロナ禍のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)により、信用金庫は大幅に貸し出しを伸ばしたという。メインバンクとする企業のシェアは、地元有力企業との取引が多い地銀には及ばないが、大手行に1.5ポイントまで肉薄する勢いだそうだ。

   コロナ禍で苦境に陥った企業への地道なフォローを反映した結果だと見ている。(渡辺淳悦)