「この国の人たちを助けたい」 インド人指揮者、魂の「第九」

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マーラー:交響曲第2番「復活」
指揮:ズービン・メータ
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 イレアナ・コルトバス(S) クリスタ・ルートヴィヒ(A)
録音:1975年2月 ウィーン
UCCD-4413
1600円
09年10月21日(再発)


   かつて、第二次世界大戦が終わり、太平洋を主戦場とした日本は極東国際軍事裁判で弾劾された。米国のD・マッカーサー主導で連合国が戦争犯罪人として指定した日本の指導者などを裁いた、即決の裁判だった。

   この裁判で、ただ一人裁判そのものの本質を「戦勝国の敗戦国に対する復讐劇に過ぎず、法に違背するもの」として被告全員の無罪を主張した連合国側の判事がいた。インド代表判事として着任していたカルカッタ大学総長=ラダ・ビノード・パール判事だ。

   多数の被告も大方の日本人も、パール判事のその言葉と姿勢に心打たれ「日本の大恩人である」と涙した。陸軍大将であり極東裁判で絞首刑となった木村兵太郎は次のような句を残している。

「闇の夜を照らすひかりのふみ仰ぎ こころ安けく逝くぞうれ志き」

   今度の大震災でのさまざまな人々の営為の中で、このパール判事を思い出す人に出会った。もちろんことのあれこれは異なるのだが、人としての本質は通ずるものがある。

   それは、音楽の世界でのことで、やはりインド人の指揮者、ズービン・メータ。

「感動的な舞台だった」

   実はメータ氏は、あの大震災の時に日本、それも東京にいた。3月中旬から東京・上野周辺で約1か月にわたって開催される予定だった<東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2011->での、フィレンツェ歌劇場公演で指揮を執るために来日していたのだ。

   だが、公演は急遽中止、福島原発事故を受けて歌劇場からは日本からの出国命令が下され帰国を余儀なくされた。しかし、メータ氏は休暇を返上し単身再来日、4月10日にはNHK交響楽団と共に東京文化会館大ホールを舞台に、大震災チャリティーコンサートとしてベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」他を演奏したのだ。

   「フィレンツェ歌劇場日本公演を無念にも途中で切り上げなければならなくなって以来、この偉大な国、日本を襲った未曾有の悲劇の後に、何かこの国の素晴らしい人々を助けられることがないかと考えておりました」とは、再来日のために発したメータ氏のメッセージだ。そして、観客たちは言った。「感動的な舞台だった」と。

外国人がいまの日本に来ることの意味

   いま東京を歩くとよくわかるのだが、ほとんど外国人の姿を見かけない。みな本国からの出国・召還命令に従い、日本を離れているのだ。海外から見れば、福島原発事故による放射能汚染の影響は日本全国、ことに東京への影響は深刻で、一刻の猶予もなく自国民の安全を確保しようとしている。

   それは当然のことだが、過剰反応とはいえ日本人としてはなにか取り残されているようで、無性に寂しく腹立たしくもある。だが、いまの日本に来るということの意味は、その場にいる我々日本人には理解しがたいことだが、ある意味、命を賭してということなのだ。それほどの思いがなければ、日本に来ることは考えられないのだ。

   多くの外国人が日本への渡航を見合わせ、クラシックに限らず音楽公演も中止が相次いでいるが、被災者を思いボランティアで再来日してくれたメータ氏の行動は、日本人として心に刻まねばならない。

   ズービン・メータの指揮には賛否両論ある。可もなく不可もないと言う人もいる。神だという人もいる。そうした評価は大事なことではあるが、是非「人々のために命を賭すことのできる」指揮者の音を聴いて判断して欲しい。紹介した音源は、メータの最高傑作といわれる1975年の音源から。

加藤 普

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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