2018年 8月 19日 (日)

四季の塩を味わう 北村森さんに見る「小異」の書き分け術

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   サンデー毎日(5月6-13日号)の「一生逸品」で、商品ジャーナリストの北村森さんが塩について書いている。これは、というモノやサービスを取り上げるコラムで、筆者は日経トレンディの元編集長。これから流行りそうなものや、隠れた名品への嗅覚は鋭いはずだ。この号で紹介されたのは、山口県長門市の「百姓の塩」である。

   ある夫婦が10年ほど前から、油谷(ゆや)湾の海水をくみ上げて塩を作っている。少量を手作りする天然塩は今どき珍しくないが、工房「百姓庵」の特徴は、仕込み時期に合わせて、四季の塩を作り分けていることだ。

   それらの違いを説明する北村さんの筆致は、ただの塩なのに実に美味そうである。

春塩「海藻が茂ってくる頃の海水から作られます。これ、天然のダシが利いているような感覚です...鯛の潮汁を作ってみたら、驚くほどに味わいが膨らみました」
夏塩「最もパンチがある。梅雨を経て、森のミネラルが流れ込んでいる海水なのですね。牛のステーキ肉を焼いたのにぶっかけると、力強さを発揮しました」
秋塩「辛さや甘み、苦みなどのバランスが一番取れていると感じさせます。これは塩むすびがいい。秋になったら新米でも試してみたいなあと思いました」
冬塩「とてもあっさりしています。パウダースノーのようにふんわり。静かに春を待つ海水から作ると、こうなるのですね。白身魚の刺し身に合わせてもみたいですが、カクテルのソルティドッグに使ってみたら、絶妙な一杯になりました」
  • 北村さんの筆致は、ただの塩なのに実に美味そう
    北村さんの筆致は、ただの塩なのに実に美味そう

四つ揃えたい衝動が

   北村さんのこのコラムは、「言われてみれば分かる、でも言われるまでは気付きもしない」で始まる。塩という単純組成の調味料を、季節ごとに作り分けるアイデアのことだろう。

   四つの味を紹介し終えた筆者は「いや納得しましたよ。というか、四季折々の海水から仕込めば、塩の味に相応の変化があるというのは、言われてみれば当然...」と念を押す。

   全国の海を調べてこの地を選んだという百姓庵の主人。油谷湾は森から流れ込む淡水と、きれいな海水が重なり合う汽水域で、塩作りには最適なのだという。

   以下、生産工程や価格(四季それぞれ180gで税別885円)の説明があり、こう結ばれる。

「四つ揃えて、いろいろと試したい衝動に駆られた、という次第です。自然のありようを見逃さなかったからこそ生まれた快作であると、私には思えました」

「広告」に堕さないこと

   新聞の経済面にもいえることだが、この種のコラムで個別商品を取り上げる場合、案配が難しい。しょせん筆者の主観とはいえ、ボロクソに書けば抗議されかねず、ほめちぎれば広告臭が漂う。書き手と媒体に信用があって、初めて作品となるジャンルなのだ。

   北村さんは独立後、地域興しなどの分野で実績を積んだある種の権威。テレビで消費トレンドの解説をする姿を見れば、この人が言うなら大ハズレはなかろうと思う。私だって、同じ商品をそこそこ魅力的に書く自信はあるけれど、その分野での知名度=信用力の差は如何ともしがたい。専門ライターの強みである。

   百姓庵のHPには「約33億年という長い間、生物は海の中にしか存在しませんでした。海という漢字は母なる人の水と書きます。海はあらゆる生命の母なのです」とある。

   こういう職人肌の塩づくりをひとことで表せば...「こだわり」とでもなろうか。書き手には、生産者のこだわりに応えたうえで、読者(消費者)を納得させる筆力が問われる。商品の小異を峻別し、必要なら用例まで添えて文字化する技術、サービス精神である。

   私も一念発起し、砂糖あたりを産地ごとに書き分けてみようか。甘いか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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