2024年 4月 24日 (水)

グラナドスのピアノ曲「アストゥリアーナ」 出版社が適当につけた題名だった

北部の地方「アストゥリアス」は関係なかった

   そして、グラナドスの「スペイン舞曲集」は、アルベニスの「組曲スペイン」ほど複雑な経緯による題名の混乱が起こらなかったか、というと・・・さにあらず、こちらも、結構ややこしいことになります。スペイン舞曲集全12曲の中で、グラナドス自身が名付けたのは4曲目と7曲目ぐらいだったらしく、そのほかの曲は、グラナドスは作曲しただけで、バルセロナの出版社がタイトルは適当につけたらしいのです。

   5曲目が「サルダーナ(アストゥリアーナ)」という題名を持つ、今日の1曲です。サルダーナというのは、地中海に面したカタルーニャの大都市バルセロナに伝わる民族舞踊で、大変ゆったりしたもの。なぜ副題で、また北部の地方「アストゥリアス風の」とついているのか謎なのですが、バルセロナ風のゆったりした動きが、北部ののどかな風景を思い起こさせる、と勝手に結びつけたのかもしれません。

   結局、グラナドスの「アストゥリアーナ」もあまり、どころか、アストゥリアスには関係ない曲です。しかし、サルダーナのゆったりしたリズムを生かしつつ、グラナドスがオリジナルで作り上げた曲の雰囲気は、北部の緑豊かな地方を想像させる、といってもあながち間違いではないような気がします。グラナドスは、民謡や民族舞踊の旋律をそのまま曲に用いることは決してせず、リズムは活用するものの、旋律は、すべてオリジナル物を作曲したからです。そこには、近代の「新しいスペイン」の芸術があったのです。

   ある国が国際化するとき、伝統文化が異国で間違って解釈される・・・というのは、現在の「日本料理」などにも当てはまる現象ですが、スペイン音楽が一挙に有名になる時期に活躍したグラナドスの素敵な曲が、「題名が、南東部カタルーニャの踊り=サルダーナ、だけれど副題が北部アストゥリアス風」という多少へんてこりんな題名をつけられてしまった、というのも似たような現象かもしれません。ともあれ、「スペイン舞曲集」の中でも、ゆったりとした雄大さを感じさせるこの曲は、おすすめの1曲です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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