2024年 4月 24日 (水)

神社本庁の「内紛」も「運動」も、おもしろい!

   朝日新聞の藤生明編集委員による右派研究第2弾。前作『ドキュメント日本会議』(ちくま新書)同様、手堅くまとめている。

   書き出しは東京・富岡八幡宮の宮司惨殺事件(2017年12月)。事件から、祖父の富岡盛彦・神社本庁元事務総長が深くかかわった戦後の反共団体「新日本協議会」へつなぎ、その創設者で「特高警察の主」と恐れられた安倍源基・元内相、彼につらなる政財官界のタカ派人脈、富岡盛彦が人生の集大成として結成に奔走した宗教右派「日本を守る会」へと展開していく。「日本を守る会」は「日本会議」の前身で、事件の舞台、富岡八幡宮が神社本庁、新日本協議会、日本を守る会・日本会議と一本の糸でつながっていくさまは一気に読める。

  • 「徹底検証 神社本庁」(藤生明著、ちくま新書)
    「徹底検証 神社本庁」(藤生明著、ちくま新書)
  • 「徹底検証 神社本庁」(藤生明著、ちくま新書)

ツートップってこういう人たち

   書き出しとなった富岡八幡宮事件では、姉を刺し殺した富岡茂永の人物像が新たな視点から描かれている。34歳で別表神社と言われる有名神社の宮司となった茂永が、尊敬する祖父を追うように、青年神職組織でキャリアをつみ、日本会議江東支部をつくり、平和祈念館建設構想阻止に走り回り、40歳を前に東京都の青年神職組織でトップに立つ姿を、ここまで詳細につづった報道はこれまでなかったはずだ。

   そして、著者は「タカ派的な発言の数々。それがどこか上滑りして聞こえるのは、事件取材を通じ、憂国の神道家のイメージからかけ離れた茂永の生活ぶり、金満ぶりを同僚たちから聞いてしまったからだろうか」とし、その証左として、茂永が催した東京都神道青年会50周年記念大会の豪華絢爛さまで、どこで探し出してきたのか、会報資料からピックアップする。

   「招待客が250人を超す盛況が予想されたことから、表参道の顔だった青山ダイヤモンドホールに会場を急きょ変更。会報『やくわえ』には、『(祝賀会では)全員着席のフランス料理フルコースというかつてない豪華なメニュー――』とあり、歌手岩崎宏美がヒット曲『ロマンス』など三曲を披露した」。こんな知られざる「小ネタ」が随所にちりばめられていることが、「神社本庁」という小難しそうなテーマを飽きさせずに読ませる隠し味になっている点は見逃せない。

   本書の出版前後、文中で紙巾を割いている「神社界のツートップ」と「靖国神社」がそれぞれ話題になった。まず前者、ツートップとは田中恒清・神社本庁総長と、打田文博・神道政治連盟会長である。田中は9月の神社本庁理事会で、懲戒免職にした神社本庁幹部職員らと本庁が争う訴訟の和解を理事に求められたことに反発し、辞意を表明した(その後、事実上撤回)。強く慰留したのが打田だとみられる。本書では、幹部職員らが訴えた神社本庁職員宿舎をめぐる不透明な取引について、裁判資料などをもとに詳述する一方、田中と打田の二人を通し、神社本庁の内紛、現状を読み解いている。著者によると、直近の神社本庁総長3人は、キングメーカーである元本庁幹部職員の打田が伴走し、トップに登りつめたという。

「靖国」の反撃ぶりもよく分かる

    また、靖国神社では、今年3月に就任したばかりの小堀邦夫宮司が神社内の勉強会で「天皇陛下は靖国神社をつぶそうとしている」などと発言したことが報道され、辞任することになった。靖国は単立宗教法人ではあるが、もちろん、神社本庁と無縁ではない。神社本庁と、連合国軍総司令部(GHQ)から「ミリタリー・シュライン」と呼ばれた靖国神社が占領期をどう生き抜き、手を取り合いながら反撃に転じたのか。この本を読むとよくわかる。建国記念の日制定で自信を取り戻した神社界が次に照準を合わせたのが「靖国神社国家護持」、つまり、「靖国法案」の成立だった。だが、その運動が暗礁に乗り上げると、「英霊にこたえる会」に看板がかけかえられ、首相らの公式参拝実現運動へ方針転換した。

   著者は、それは国家護持への迂回戦術であり、「急がばまわれと揶揄もされたが、それは保守運動の柔軟さ、狡猾さの表れであり、目的達成への執念深さを物語っている」と述べる。同様に、「元号法制化実現運動」をめぐって、ノンフィクション作家、猪野健治の読み解きを紹介している。「猪野によれば、神社本庁や生長の家などの靖国推進派は、日本の『慣習』として続いている元号をわざわざ持ち出して、法律で規定しようとすることで、反対派の意見を封殺し、靖国法案に反対してきた教団の分断を図った」「推進派は元号法案を成立させたことで確実に『一点突破』を果たした。反対運動はこれによってその一角が崩れたと言っていい」。猪野の見解は説得力がある。

   つまり、こういうことなのだろう。本書は神社本庁による運動・内紛を通じ、彼らの思考回路と戦術を読み解こうとした解説書なのである。彼らはどこから来て、何のために組織し、どんな価値観をもって運動してきたのか、どこへ向かうのか。ちなみに、神道政治連盟国会議員懇談会の現職会長は安倍晋三首相が務める。おもしろい本だ。

   価格は860円(税抜)。

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