2024年 4月 26日 (金)

没後30年の開高健 島地勝彦さんは「悪妻説」をネタにしんみりと

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豪胆と繊細を立体的に

   エッセイストの島地さんは、集英社の編集者(長)として「週刊プレイボーイ」などでひと時代を築いた名出版人だ。10歳上の開高とは、私も愛読した「酒場でジョーク十番勝負」なる共著があり、仕事を超えた、師弟のような間柄だった。

   何度も書いているはずの友人を、作品として偲ぶのは骨の折れる仕事である。「とっておきの話」は出尽くし、秘話の類は残っていない。そこで島地さんは、夫人という「媒体」を置くことで、開高の豪胆と繊細を立体的に描き出す。バラバラに見える逸話や体験談が、読み進めるにつれて早世の作家にフォーカスしていく。

   サントリー時代に仕事で知り合った夫人にすれば、売れてからの開高は7歳下の夫というより、「社会的存在」だったに違いない。「死んでわたしのモノになった」というむき出しの告白は、生前の因縁をも超えて鬼気迫るものがある。

   島地さんは最後の一段落を、連載を終えるにあたっての「挨拶」に割いている。

   「突然この世に呼び戻され、高貴なエピソードから下世話なジョークまで、ペンの走るままに書きたてられた怪物たち。身勝手なこのわたしを笑って許してくれた、すべての敬愛する怪物たちへ。合掌」。全100回をまとめて読みたいので、書籍化をお願いしたい。

   ちなみに最終回のタイトルは〈縁に泣き縁に笑った開高健は、昇天して"皆のモノ"になった〉。「皆」とは、私たち一般読者のことであろう。夫人の言葉をひねったこのセンス、輝きを失わない作品群へのトリビュートも兼ねて、なかなかのものだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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