2019年 9月 18日 (水)

ファミリーという病 下重暁子さんは「そんなに美しい存在か」と問う

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   女性セブン(8月22-29日号)の「夕暮れのロマンチスト」で、作家の下重暁子さんが「ファミリーという病」と題して世相を論じている。

   NHKアナウンサーからフリーに転身、83歳になった今も元気に文筆活動を続ける筆者。2015年に幻冬舎から出した『家族という病』では、旧来の家族観に疑問を呈し、何より自立した個人が重要だと説いた。この人が語る「家族」には一読の価値があろう。

   「ラヴェンダーの紫が褪せはじめている。赤や黄の花々はまだはっきりしているから、紫という色のはかなさを思わせる」...この冒頭、さしたる意味はない。要するに筆者は北海道の富良野にいて、そこで大勢の中国人観光客に出会うところからが本題だ。

「有名ホテルは超満員、温泉は家族連れで賑わっている。ホテル側もファミリー向けサービスに躍起だ。ファミリー。中国、韓国、日本など東洋の国々はファミリーを重んじる。それはいいとして、ファミリーにある種の幻想を抱いている」

   家族は素晴らしいという価値観ゆえに、企業などでも家族的なものが大切にされる...ここでピンと来た読者もいるだろうが、下重さんは吉本興業の騒動へと展開していく。

「家族に例えれば、吉本はお父さん、そしてタレントは子供、大きなファミリーなのだ。社長の会見でもファミリーという言葉を聞いた。ジャニーさん(ジャニー喜多川=冨永注)の葬儀でも『父と息子達』という表現を盛んに聞いた気がする。果たしてファミリーがそんなに美しく問題のない存在だと本当に信じているのだろうか」
  • 現実には、家族のシステムに救われている個人もあるはず
    現実には、家族のシステムに救われている個人もあるはず

あまりに時代遅れ

   ここは一般論だが、時の話題を「自分の領域」に引き込んだ時の筆には勢いが出る。下重さんは、減り続ける戦後日本の殺人件数において、家族間のそれが今や半分を占めることを例示し、現実を見れば問題が山積しているのが家族なのだと続ける。

「幸せそうに見えても、父、母、子供という役割を演じているだけで、本音をぶつけ合う事もなく、うわべだけの偽装。一番そばにいて、一番親しいはずの家族の事を一番知らない...家族という団体の幻想ではなく、一人一人の個を知る事が大事だと...」

   その先に待つ結論は自明であろう。

「大企業になった吉本興業が、組織を親子関係としてのファミリーととらえているとすれば、あまりに時代遅れとしかいいようがない」

   筆者はさらに、バラエティ番組でお笑い芸人と共演した経験にも触れる。人を笑わせるために、芸人たちがどれほど真剣なのかを教えられたと。

「沢山の様々な個がぶつかりあっているお笑いの世界。バラエティの出演者の中には、どんな才能が埋もれていることか...彼等が自分の才能を磨ける環境を作るのが所属する事務所の務め。ファミリーだの、親子だのという古い価値観で言い逃れるのではなく、本来の芸の厳しさを取り戻す原点を見つめて欲しい」

群れない、媚びない

   下重さんの論旨には、少なからぬ反論が寄せられるだろう。そもそもベストセラーとなった『家族という病』にも、家族的な価値観を愛する論客から批判が寄せられた。

   もちろん私は「個」を重視する下重さんを支持するし、トピックである吉本の企業体質を家族論に落とし込む論法も是とするのだが、時に「そこまで言うか」という感想を抱く部分もあった。たとえば、家族の構成員が父母や子どもという役割を演じているだけで、本音をぶつけ合うこともない、といった記述である。

   現実には、家族のシステムに救われている個人もあるはずだし、本音をぶつけ合って泣き笑いを重ねる一家もあろう。感情に流されて本質を見失うことはあっても、当事者が幸せならそれでいいではないかと思うのだ。筆者からは「あなたは甘い」と言われそうだが。

   下重さんの連載には「群れない、媚びない、自由気ままに綴る道草エッセイ」の副題がついている。空気が同じ方向に流れやすいこのご時世にあって、群れない結果の「極論」、媚びないゆえの「直言」は貴重である。そこはもう、全面的に肯定するしかない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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