2024年 4月 20日 (土)

動物には興味なし? 前田エマさんと生き物たち、その絶妙な距離感

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   mina 1月号の「週末カフェ」で、エッセイストの前田エマさんが自身の動物遍歴を語っている。ミーナは2001年創刊の女性ファッション誌。もともと発行元は主婦の友社だったが、1年ほど前、同社元社長が起こした夕星(ゆうづつ)社に移った。前田コラムもまだ若く、これで5回目。写真家、川原崎宣喜さんの大ぶりな作品(ほぼ1ページ半大)と組んで、なかなかおしゃれな体裁である。

「私は、動物に興味がない。イヌやネコに出くわしても『あ、イヌだ』『あ、ネコだ』という感じで『きゃー!かわいい』とは、ならない」

   かといって、ペットの類が嫌いなわけでもないらしい。前田さんは子ども時代の記憶を引っ張り出す。小学生のころ、クラスの「カースト制度」の〈中の下〉か〈下の上〉に位置していたという筆者は、いわゆる「生き物係」を何度も務めていた。

「学校やクラスで飼っている動物の世話をする係なのだが、他の係に比べて非常にめんどくさい仕事内容なのであまり人気がなかった」

   登校したらウサギ小屋に行って掃除や餌やり、休み時間には水替え。夏冬の休みにも当番の日は学校に通った。ウサギの次はカメだった。級友の「ピアノが上手い女の子」が持ち込んだものだ。最初はみんな喜んでいたが、そのうち水槽のドブ臭さゆえに隅に追いやられ、夏冬の休みには「係」の前田さんが家に持ち帰って世話をすることになる。

  • 長く生活を共にしていれば情が移る
    長く生活を共にしていれば情が移る
  • 長く生活を共にしていれば情が移る

確かに情が湧いてくる

   彼女の弟は動物が好きで、ゲンゴロウやオタマジャクシを獲ってきて自宅で飼っていた。ところが、世話をするのはいつも姉のほうだった。

「私にとっては、イヌもネコもウサギもカメもゲンゴロウもオタマジャクシも、同じだ。そしてもっと大きい括りで言うと、ヒトもそれらと大して違いはない。そこまで興味がない。ただ、しばらくいっしょに過ごすと、情のようなものが湧いて来るのは確かだ」

   ある日、祖母の家のネコが死んだと電話で知らされた。「ふーん、そうなんだ」...電話を切ってもテレビ番組の続きを見ていた前田さんだが、「番組が終わったとたん、ぶわっと目の奥が熱くなり、なぜか涙を流していた」という。

「カフェの中、こちらを見つめる犬と目が合って、なんだかそんなことを思い出した」

   添えられた川原崎さんの写真は、東京都内のコーヒー店を外から撮ったものだ。窓際のカウンターの向こうから、2匹のトイプードルが「こちら」をじっと見ている。

勇気ある書き出し

   まず書き出しを読んで、なかなか勇気があるなと思った。冒頭から「動物に興味がない」と言われては、相当数いるはずのワンコ党やニャンコ党の読者は面白くなかろう。そこで読むのをやめてしまうかもしれない。

   業界での立ち位置が定まった年配の書き手ならともかく、筆者は27歳。ライターで食べていくつもりなら、無駄に「アンチ」は増やしたくない。だが、八方美人的に、当たり障りのない話や表現を連ねては固定ファンがつかない。そこらの案配が難しいわけだが、この筆者はリスクをとって正直に書く、という王道を行っている。

   通読してみれば、生き物との縁がユーモラスに描かれ、動物好きにも不快なところはなさそうだ。小学生時代の世話係で懲りたのか、のめり込むことがない前田さん。とはいえ、長く生活を共にしていれば情が移るというペット愛の本質は理解し、実際に泣いた話を吐露している。動物に興味がないと公言する筆者だからこそ、その涙には説得力が宿るのかもしれない。作らず飾らず、ナチュラルな筆致は強い。

   エッセイ、コラムともに、筆者の個人的な体験や嗜好に触れる時は、正直と自然体に徹することだ。度を超した自慢や美化、行き過ぎた自虐、いずれも読者を白けさせる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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