2024年 4月 20日 (土)

ページが水に溶けて文字だけが漂う 幻想的な一冊「水温集」の美しい仕掛け

   紙が水に溶け、印刷された言葉が水面を漂う――幻想的な本「水温集」。広島県尾道市の古本屋「弐拾dB(ニジュウデシベル)」が販売中の一冊が、ツイッターで話題になっている。発端は同アカウントによる2020年1月13日の投稿だ。文字が水に浮かぶ様子を収めた画像が反響を呼び、注文が殺到。1月15日には増刷が決まった。

   製作者で、「弐拾dB」ツイッターアカウントを運用する藤井さんに電話取材し、誕生秘話を聞いた。

  • 紙が水に溶け、印刷された言葉が水面を漂う「水温集」
    紙が水に溶け、印刷された言葉が水面を漂う「水温集」
  • お盆の流し灯篭などに用いられる「溶ける紙」に文字を印刷
    お盆の流し灯篭などに用いられる「溶ける紙」に文字を印刷
  • 紙だけが溶け、文字が水面に残る
    紙だけが溶け、文字が水面に残る
  • 紙片を溶かした後の様子
    紙片を溶かした後の様子
  • 恋人や家族など、大切な人へのプレゼントにしたいという注文が多いそう
    恋人や家族など、大切な人へのプレゼントにしたいという注文が多いそう
  • 紙片を全て溶かすと、箱と薬袋のみになる
    紙片を全て溶かすと、箱と薬袋のみになる
  • 紙が水に溶け、印刷された言葉が水面を漂う「水温集」
  • お盆の流し灯篭などに用いられる「溶ける紙」に文字を印刷
  • 紙だけが溶け、文字が水面に残る
  • 紙片を溶かした後の様子
  • 恋人や家族など、大切な人へのプレゼントにしたいという注文が多いそう
  • 紙片を全て溶かすと、箱と薬袋のみになる

1冊20分かけ、40枚の紙片を手作業で製本

   「水温集」は水にちなんだ詩やエッセイを収めた、約40枚の紙片から成るアンソロジー。藤井さんが作品を書き下ろし、装丁を「紙作室 そえがき」のrinnmiさんが手がけた。

   もとは「弐拾dB」オープン2周年にあわせ、18年4月20日に店頭で限定100部販売したもの。その後、日本書籍出版協会・日本印刷産業連合会主催の「第53回造本装幀コンクール」にエントリーし、19年6月に審査員奨励賞を受賞したことから300部増刷。その在庫を販売していた矢先に1月13日のツイートが反響を呼び、嬉しい悲鳴といったところだ。

「現状、大体300件くらいの注文が来ています。在庫では足りないのでさらに増刷を決めました。ただ『水温集』は印刷所から紙片の状態で送られてくるので、1人で製本しなければなりません。注文受付から発送まで家内制手工業なんです。注文は歓迎していますが、お届けには時間がかかってしまいそうです...何せ1冊作るのに20分ほどかかるので(笑)」

   文字が水面に漂う秘密は、紙にある。お盆の流し灯篭などに用いられる「溶ける紙」に、オフセットインキ(油)で本文を印刷しているため、水に溶かすと紙の繊維だけが溶けて言葉が残るのだ。17年9月に藤井さんが友人のrinnmiさんに「水に浸けないと読めない本を作れないか」と相談したところ、「水に浸けると溶ける面白い紙ならある」と教えてもらったことから、製作が始まった。藤井さんは「試しに文字を印刷して水に溶かしてみて、これは面白いと思いました」と当時を振り返る。

「紙片を全部溶かしてしまうと箱と薬袋だけになりますが、作品を目で見て味わった時間や記憶は残ります。『ないけどある』。この感覚を味わってもらえたら嬉しいです」
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