2024年 4月 26日 (金)

心の免疫力 松浦弥太郎さんは二つの「指差し確認」で不安と向き合う

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   ku:nel 9月号の特集「クウネル世代の生活スタイルの整え方」に寄せた短文で、松浦弥太郎さんが日常的な不安にどう向き合うかを説いている。松浦さんは同誌で別に連載を持っているため「スペシャルエッセイ」と銘打っての寄稿だ。

   「ライフスタイルを考えることと、日々、不安と迷いに向き合うことは、いつも同軸にあります」...こう書き出した筆者は、人間は不安や迷いを乗り越えるために考え、悩み、学び、助け合い、その延長線の上に幸せを見出す、とつないでいく。そして、誰かに与えられるのではなく、ささやかでも「しあわせ」を自分で見出すために生きていると。

   では「しあわせ」とは何か。

「どんなに不安であったり迷いがあっても、その状況や、または他人に対して、自分がどんなふうに接するのか、どんなふうに理解し、どんなふうに反応するのかによって、それを苦しみとするのか、しあわせだと感じるのかは左右される」

   よくある処世論だが、松浦さんの場合、穏やかに暮らすための心がけが独特である。

「僕のベーシックは全肯定です。すべてを受け入れ、理解し、認めること...どんな出来事にもさまざまな側面があります。ある側面は苦しみであっても、別の側面から見たら、学びが多く、感謝できることは多々あります」
  • 悩んだときは、どうすれば…
    悩んだときは、どうすれば…
  • 悩んだときは、どうすれば…

なにごとも「過ぎない」

   松浦さんは、これからの時代はウイルスに対する免疫力以上に、「心の免疫力」を高めることが必要だという。先の「全肯定」も自分なりの免疫づくり、ということだ。

「いかに精神的な痛みで心を苦しめないようにするのか。これから何が起きるかわからない時代に、いらだちながら暮らすことくらい苦しいことはありません」

   とはいえ、世には慢性的ないらだちの中で「自分自身に腹を立ててしまう暮らし」を続ける人も少なくない。そうならないためには「過ぎないこと」だと。

「自分や他人、社会に対して、期待し過ぎない、求め過ぎない、望み過ぎないこと。決してあきらめることではありません...ただ過剰にならないこと。過ぎた欲求が果たされないことによるストレスが心をいらだたせ、怒りを生み出すからです」

(1)どんなことにもしあわせを見出そう
(2)足るを知り、決して過ぎないように

「まずはこのふたつを毎日指差し確認する。そして何事も簡潔に。これで僕のライフスタイルは整うのです」

クウネル世代の所作

   全ページのほぼ8割を埋めるこの特集について、編集部は冒頭でこう触れている。

〈未知のウイルスの登場で、暮らし方、働き方がガラリと変わりました。いままでとはちがう生活様式が求められることも多々ですが、過度に不安になる必要はありません。基本的なルールは守りつつも、暮らしの根幹は揺るがすことなく、自分なりの心地よさを大切に穏やかに、安らかに暮らしていきたいですね〉

   なぜそんな特集をいま組むのかといえば、同誌の主たる読者層が〈年を重ね、経験を積み、「私らしさ」が確立されている...だからこそ、暮らしを気持ちよく整える術を熟知している〉中高年だからである。

   つまり「読者の皆さんには釈迦に説法となるが、何かと不安なコロナ後も蓄積を生かし、自信を持って生きましょう!」というエールだと読んだ。

   エッセイストの松浦さんは「暮しの手帖」の元編集長。同世代かと思いきや、私より9歳も若い。「自分や他人、社会に期待し過ぎない」などと言われると、つい「そんなに老成しちゃダメ」「社会には期待しましょう」「納税分くらいの権利は主張しようよ」と言いたくなる向きもあろう。私もその一人なのだが、鎧をつけてガシャガシャと世を渡るより、柳に風でいくほうが長持ちするのかもと、ここは「全肯定」でやりすごした。

   それがクウネル世代の所作なのだろう。編集部や執筆陣、固定読者...テレビやネットと違い、閉じてはいるが内部では心地よいという、雑誌ワールドがそこにある。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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