2024年 4月 20日 (土)

コロナ余聞 ヤマザキマリさんはイタリアの店と常連の老人を想う

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広がりと奥行き

   特段の主張も、クライマックスもない文章。それでも冒頭から読者を引き込み、途中で逃がすことなく最後まで引っ張っていく。プロの技である。

   この短文からあえてメッセージを探すなら、コロナ禍のやるせなさとでもなろうか。しかしヤマザキさんの話は、感染症に苛まれる飲食店より、常連客の晩年にフォーカスされているため、物語にある種の普遍性が備わる。たとえば「人は人生の終盤にこんなふうに笑えるものなのか」という筆者の感嘆がそれである。

   無垢な子どもの笑顔は何物にも代えがたいが、人生の起伏を刻み込んだ、しわだらけの破顔一笑も味わい深い。そして孤独なその老人の笑顔は、唯一の「心の拠り所」であるフェルッチョの店でのみ見せる表情だろう。

   店主と客の戯れ合い、その店だけの料理、一杯のハウスワイン...そうした、たわいもない小さな日常をコロナは奪っていく。読者はフェルッチョの店の苦境を、近所の居酒屋や蕎麦屋に重ねて読むだろう。一編のエッセイは、そうして広がりと奥行きを得る。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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