2022年 7月 7日 (木)

好きになる力 酒井順子さんは、何かに夢中になって更年期を楽しもうと

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   Precious(プレシャス)12月号の企画「第二のお年頃」に、酒井順子さんがエッセイを寄せている。小学館の女性誌で、主な読者層は40前後の働く女性。やがて訪れる第二のお年頃(更年期)をいかに前向きに過ごすか、というのが企画の趣旨である。

   酒井さんは、先ごろニューヨーク転勤が決まった女友達の話から始める。50代の彼女は既婚だが子どもはいない。法律関係の仕事をしており、日本で働く夫を残しての単身赴任となる。会社からの打診に迷いはしたが、「親もまだ元気だし、この年で新しいことに挑戦できるのは幸せ」と考えたら、やる気になったそうだ。

   酒井さんは、決断のポイントは「仕事が好き」ということではないか、とみる。

「日本でも責任ある立場で仕事をしてきたけれど...刺激的な仕事に挑戦することが大好きだからこそ、彼女は初めて暮らす街での新たなスタート切ることにしたのです」

   何かを好きになるパワー、夢中になれる才能を、筆者は「好き力」と名づけた。

「彼女のように、強い『好き力』を持つ人達は何だか人生が楽しそうである...何か、もしくは誰かのことを好きになる能力を持つ人は、生気に溢れた日々を送っている」

   酒井さんの場合、ジャニーズ系や韓流といったアイドルを好きになる才能はゼロで、いつも楽しそうなファンを羨ましく見ているという。その代わり、平安時代や鉄道に関しては「考えるだけで心が躍り出す」らしい。なかなか渋い好みではないか。

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心の沸騰感が違う

「思い返せば若い頃、我々は『好きになること』よりも、『好かれること』を、重要視していました。異性関係においてもそうですし、仕事においても、仕事相手からいかに気に入られるか、といったことに汲々となっていなかったか」

   酒井さんによると、モテたりチヤホヤされたりするのは誰でも嬉しいが、受け身の姿勢でいる限り、相手の気持ち次第でこちらの楽しさも萎えてしまう。

「人生の経験を積む中で次第にわかってくるのは、自分から好きになることがもたらす心の沸騰感です...自分から好きになれば、自分の中のエネルギーが続く限り、いつまでも心は躍り続ける...『好き』という言葉は、特別な力を持っています」

   「○○が好き」と公言していれば、自ずと○○関係の情報が集まり、同好の士とも出会う。昔は恥ずかしくて言えなかった「好き」を堂々と言えるのが40代50代で、「好きになった対象とともに、自由にダンスを踊ることができるお年頃」なのだという。

「我が友はニューヨークに場を移して新たなダンスを始めることになりましたが、さて自分は。その歩幅が小さくても大きくても、まずは『好き』と告白して一歩を踏み出せば、心も身体も、ふわりと浮遊していきそうです」

人生半ばのモヤモヤ

   プレシャスの企画は冒頭、更年期についてこう記す。

〈女性なら誰もが迎える、心身が揺らぎやすい時期です。人生100年といわれる時代にあって、その半ばに、なんだかモヤモヤ、ザワザワしている人も多いのでは? そんなときは、人生の先輩や同年代の話を聞くに限ります!〉

   「第二のお年頃」にどう向き合い、どう楽しむか。乗り越えるという意識を捨て、若い時代とも比べず前向きに受け止めれば、光は必ず見えてくると。酒井さんが、ひとつ下の世代に贈るアドバイスは、「好きなもの(人)が心を躍らせる」ということである。

   50代でNY単身赴任を受け入れた女性のエネルギーも、仕事への愛着が源だと考える筆者。渡米ほど劇的な一歩でなくても、何かを好きになる、好きでいることが新たな生活へと背中を押してくれるはず、と提案する。

   もちろん現実には、それなりの条件に恵まれなければ「自由にダンスを踊る」わけにもいかない。それでも、様々なしがらみを振り切って、まずは「好き」をどんどん口に出そうよというメッセージだろう。気の持ちようが現実を変えることだってある。

   昨今「ニューヨークで新生活」と聞けば、あのご夫妻を連想する読者も多かろう。酒井さんの「好き力」論に従えば、これまでの相思相愛が続く限り、前途は明るそうだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし) コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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