マネーゲームが招く「石油高騰」 投機ファンドが値段を決める

   石油の値上がりが止まらない。2007年12月10日付のレギュラーガソリンの全国平均価格は1リットルあたり155.5円で、史上最高値を記録(石油情報センター調べ)。底だった02年の価格の約1.5倍に跳ね上がった。さらに寒い冬には欠かせない灯油、漁船に使うA重油、トラック燃料の軽油も値上りし、クリーニングやタクシー料金など身近な商品やサービスにも波及している。なぜこんなに石油が高いのか? 尋常ではないマネーゲームによる「値上がりのしくみ」をご存知だろうか。

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「石油とは無関係の投機家が価格を決めている」


2002年には1バーレルあたり25ドル台だった原油価格が100ドル目前まで高騰した

   商品の価格は普通、需要と供給で決まる。石油も基本は同じだ。日本や米国、中国やインドなど石油の消費国の「需要」と、サウジアラビアやイランなど産油国による「供給」の双方のバランスで決まる。最近では、経済成長が年率10%近い中国など新興国のエネルギー消費の急増が需要を押し上げ、原油高の一因となっている。

   同時多発テロ後の2002年に1バーレルあたり25ドル台だった原油価格は、07年12月には90ドル台まで高騰した。ところが、最近の異様な原油価格の急騰は需給要因だけでは説明しきれない。では、何が影響しているのか。日本エネルギー経済研究所・中東研究センターによると、“犯人”はずばり「先物市場の投機的な取引」だという。

   先物市場とは、将来受け渡す商品について、現時点であらかじめ価格を決めて取引する「先物取引」を仲介するマーケットだ。現物取引に比べて投機性が高いのが特色だ。

   「07年7月に1バーレル70ドル台だった原油価格は、わずか5ヶ月間で90ドル台まで急騰していますが、その差し引き20ドル分はすべて、先物市場の投機による取引で決まった価格と言っても過言ではありません」と中東研究センターの研究員は語る。つまり、最近の石油の値上り分は、石油とは一切関係のない投機家が決めているというのだ。

生産量0.4%の「米国産原油」が世界の価格を支配する

   なぜ投機家の取引で石油の値段が決まってしまうのか。その仕組みはこうだ。

   日本に輸入される原油の価格は、中東産のドバイ原油の価格を指標として決められている。しかし、その価格は単純な需給バランスだけでは決まらない。世界的に強い影響力をもつ米国産原油、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)の価格動向にも左右される。

   世界の原油価格の指標になっているWTIは、生産量自体は日量30万バーレル。世界の原油生産量の0.4パーセントにすぎない。ところが、代表的な先物市場であるニューヨーク商品取引所(NYMEX)に上場されて、1日2億バーレルも取引されている。これはなんと、世界中の石油実需の2倍以上という巨大な数字だ。

   米国ニューヨークの市場で投機家たちが取引するWTIの先物価格がドバイ原油の価格に反映し、それが日本のガソリンや灯油にも跳ね返る。まさに実体経済とは関係ないマネーゲームが私たちの生活を直撃しているのだ。

「サブプライム問題が原油高の最大要因」


日本のガソリンにも米国の「サブプライムショック」は大きな影を落としている

   さらに厄介なのは、先物市場の投機家は、売り買いの材料を必ずしも石油とは関係ないところで探していることだ。イラン情勢やトルコ軍のイラク進出の議会決議など地政学的リスクに加え、最近では、ファンド業者がサブプライムローン(米国の低所得者向け住宅ローン)での損失をカバーするため石油先物を買いまくるという事態まで起きている。

   世界の金融市場を震撼させたサブプライム問題が、原油の値上りにも大きな影を落としている。「サブプライム問題=米国の失墜が、原油高の最大要因」と中東研究センターの研究員は語気を強める。「原油の高騰」と「サブプライム問題」という世界経済を揺るがす2つの波乱要素が、実は密接にリンクしていたのだった。

   ただ最近は、「原油価格の高騰は終わりに近づいている」との見方も出てきた。原油価格を支える先物市場の投機家は気まぐれだ。「買い越しの次は利益確定のため売り飛ばす」(富士通総研)。いまの原油価格はまさにバブルであり、売り時がいつなのか投機家は見計らっているという。

   とはいえ、値上がりした石油が一朝一夕で下落するわけではない。年末年始に海外旅行に出ようと思っても、ジェット燃料の大幅な上昇で、航空運賃に上乗せされる「燃油サーチャージ」は大幅アップのまま。せっかくの旅もちょっと憂鬱なものになってしまいそうだ。

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