【NY発】電子書籍ノ台頭ニモマケズ、出店ラッシュのNY書店事情

   アッパーウエストサイドのブロードウェイ沿いに、小さな書店「Murder Ink Bookstore」がありました。赤いオーニングに描かれた真っ黒なピストルに店名のMUDER INK.の文字。中に入るまでもなく、ミステリー本の専門店だとわかります。でも、ある日突然、中は空っぽになりSTORE FOR RENT(貸し店舗)の張り紙が張られてしまいました。

   東京の世田谷区ほどしかないマンハッタン。地価の高さはご想像通り。おまけに商業物件は、家賃を更新時に2倍にしようが、3倍にしようが、大家さんの思うとおりにできるそうで、フランク・シナトラが、ニューヨークに戻ってきたら、必ず運転手をやって買いに行かせたというウエストビレッジのイタリアンベーカリーも家賃の値上げにともないあっさり閉店。ブリーカーストリートにあったステキな本屋さん「Biography Bookstore」も突然、閉店してしまいました。

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今NYで一番ホットなお土産スポットとは

同じ通り沿いにある「マーク・ジェイコブス」の4店舗目が、ここ「ブックマーク」

国ごとに分かれた店内の書棚(アイドルワイルドの店内)

   ところが、その書店跡に9月4日、ニューヨークを代表するファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスが書店「BOOKMARC」を開店しました。

   店内には、世界に400部しかない1000ドルもするエミリオ・プッチのドローイング集、マリオ・テスティーノが撮ったケイト・モスの写真集などアート本がぎっしり。しかし、飛ぶように売れているのは、ブランドロゴの入った文房具やトートバッグなど。現在、ニューヨークで一番ホットなお土産スポットと化しています。

   経済危機のご時勢、大型書店にお客を奪われ、おまけに電子書籍の台頭もあり、とっくの昔に壊滅したかと思っていた個人経営の書店。それが、「BOOKMARC」をはじめ、ここ数年、新たにオープンする店が増えているのです。

   たとえば、18丁目、五番街に近いビルの2階に08年にオープンしたのは「Idlewild Books」。ここは、元国連の広報部に勤めていたデビット・デルベッキオさんが、世界中を旅した経験を生かして、世界の国に関する本を集めた、大きな窓が印象的な書店。

   店名のアイドルワイルドで、ニューヨークのとある場所にピンときた人は、すごいです。私なんてデビットさんに「赤毛のアン?」とか、聞いてしまいました。店の名前は、ニューヨークの空の玄関JFK(ジョン・F・ケネディ)空港の元の名前から取られ、空港で使用されていた椅子が店内では使われています。


書店の一角ではフランス語教室(左)。通りに面した大きな窓(右)

個人経営の書店が続々と開店


元の「Biography Bookstore」は「bookbook」として近所に再オープン

   ほかにも、なくなったと思っていた「Biography Bookstore」も「bookbook」と名前をかえて、同じブリーカー通りに再オープン。イーストビレッジには「Mast books」、アッパーウエストサイドにも「Book Culture」、チェルシーマーケットの中には、グランドセントラル駅にある「Posman Books」の支店があります。また、ブルックリンには、家賃の値上げで店を移転して新たにオープンした「Unnameable Books」、パン屋さんの看板がそのまま残った店舗跡に入った「Desert Island」のほか、「World」「Boulevard Books & Cafe」「Greenlight Bookstore」「Book Thug Nation」などの個人経営の書店が続々開店。ニューヨークでは、閉店して消えていく書店と同じ数ほどの書店がオープンしているようです。

   先日も、市内に何軒もの大型店舗を展開する「Barns&Noble」に関する驚きのニュースが流れました。アッパーイーストサイド86丁目の店舗がスーパーマーケット「フェアウェイ」に、アッパーウエストサイドのリンカーンセンターの店舗はアウトレット「センチュリー21」になるそうです。なんとも不思議なニューヨーク書店事情です。

坂本真理

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