リアルから仮想化へと変遷 音楽産業はどこへ向かうのか(下)

   音楽産業の将来はどうなるのか。前回に続き、本稿では、今後も残る仕組み――情報と情報を欲するユーザーを結ぶプロセス/システム――を考えてみたい。

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音楽情報はクラウドに集約される

   ハッキリと言えることは、音楽情報が「雲(クラウド)」の中に納まってしまうこと。いわゆるクラウド・コンピューティングといわれるコンピューター社会で、音楽情報も1か所に集約され、それぞれが利用料を支払い取り出して使うという形になるだろう。

   一度取り出すたびに使用料、著作権料を支払うことになっていく。その管理は一元化されることになり簡単で、集約される「雲」への情報登録にも料金が発生するという、これまでにはない仕組みが生み出されるかもしれない。だからといって、エンドユーザーであるリスナーは、システムを更新する必要もなく、現行のまま問題なく音楽情報をダウンロードできるから、そのシステムの変化に気付かなかったりして。

   これまで述べてきたように、音楽産業はアナログからデジタルへ移行する過程で、いくつかのプロセス/システムが消滅するということになるだろう。が、その中にあって、「ライヴ」という情報伝達の手段だけは、その重要性を拡大していくと思われる。極論すれば、インターネット上に展開される音源情報は、単にライヴへとユーザーを誘うための働きしか持たなくなるかもしれない。

「リアルな情報」に関わる者は生き残る

   では、それ以外の現行の音楽産業従事者は、どこへ向かえばいいのか?

   結局のところ、おそらくは音源としてのミュージシャン、彼らの創る音源、その著作権などの管理、ライヴ制作などのイベントメーカー、クラウドなどにおける音源の一元管理者など、「新しい」システムの管理・維持者だけが生き残ることになるだろう。別の言い方をすれば、複製ではなく"リアルな情報"に関わる者たちのことだ。そのどこかに属することは、未来を切り開く鍵になる。

   だが、CDに代表されるパッケージメディアの主商品であった音楽は、すでに商品であることを拒絶している。映像商品も今はまだダウンロードするには情報量が大きすぎるから継続しているだけで、未来はわからない。やがては音楽情報と同じ道を歩むことになりそうだ。パッケージメディア商品は主流から弾きだされ、生き残りは図れない。おそらくは近い将来、音楽産業構造の現行システム/プロセスは、音を立てて完全崩壊する、と思わざるを得ない。

   そこで、音楽産業というくくりから外れるというのも手だ。いまからでも遅くはない、富士フィルムがコラーゲンという共通項を利用し、フィルムからメタボ防止のサプリメント開発に転進したような、まったく別の産業構造に殴り込みをかけるか、まったく新しいシステム/プロセスを別の産業の中で構築するか。残された道は限られているのではないだろうか。

加藤 普

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