【書評ウォッチ】新人諸君、商人道を学べ MBAや金融の理論などいらない

【2012年4月1日(日)の各紙から】さあスタートの4月、サラリーマン経験もある作家・江上剛氏が朝日で「新入社員へ」と題して、社会人生活に「糧となる」数冊をすすめている。

   読書欄のトップ記事というと、どうも小難しい書き方に陥りがちだが、これならわかりやすい。ベテラン社会人にも参考になる。まずは、町の小さな洋品店を世界的な流通企業に育て上げたセブン&アイ・ホールディングス名誉会長、伊藤雅俊さんの『ひらがなで考える商い(上下)』(日経BP社、各1260円)や『商いの道』(PHP研究所、1050円)。商人道をやさしく説いている。

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「あたりまえのことを命懸けで実行せよ」


『ひらがなで考える商い(上)』

   著者の伊藤さんが創業以来、社員に言ってきた三つの約束がある。①仕入先に対して20日締めの月末現金払いをする②従業員の給料を遅配しない③安心安全な商品を売る。

   江上氏はこれを紹介して、「社会人として成功するのにMBAや難しい金融理論などは必要ありません」「あたりまえのことをどれだけ命懸けで実行できるかが重要」と強調する。この著者と評者に共通する思い、新社会人にどれだけ伝わるか。

   「社会人になったら理不尽なことを山ほど経験します」とも江上氏は言う。筋を通しても正当に評価されるとは限らない。妥協に妥協を重ね、いったい自分は何をやっているのかと迷うこともある。

   そんなときは「自分の大義を思い返して」と、江上氏は大義に殉じながら報われなかった人たちを描いた『男子の本懐』や『落日燃ゆ』(城山三郎著、ともに新潮文庫に)をあげる。財政再建のために緊縮策を進めながら凶弾に倒れた『男子の本懐』の浜口雄幸と井上準之助には、なにやら今の政治状況を思わす一面も。

女子校、男子校ってどんな学校?


『女子校育ち』

   ほかには、新学期区切りの月にあわせたのか、東京新聞が『女子校育ち』(辛酸なめ子著、ちくまプリマー新書)と、『男子校という選択』(おおたとしまさ著、日経プレミアシリーズ)をとりあげた。

   「自然体で女を武器にできず……可愛げのない女になってしまい」「男子にうつつをぬかすことなく」といった部分に、自分も中学から大学まで女子校育ちという記者がうなずく。男子校のほうには「のびのび、いきいきと男らしさを開花させるチャンス」と著者。共学校主流の中で、この2冊は新鮮で説得力ありと前向きの評価を与えられている。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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