花椒の風味がポイントだった 日中「即席マーボー豆腐格差」

   日本に住んでいたころ、自分で作る中華料理、というのは麻婆豆腐だけだった。といっても、インスタントである。豆腐だけあればすぐに作れるM屋の麻婆豆腐の素には大変よくお世話になった。さすが本場中国。スーパーにはさまざまな種類の麻婆豆腐の素が売っている。

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「日本のインスタントの麻婆豆腐は甘くて食べられない」


北京で売られている麻婆豆腐の素の例。左端の阿香婆が筆者の一押し。週1回は食べている。
友人の一押しは、McCormickの素

   何種類か試した結果、阿香婆というメーカーのものに軍配が上がった(私心による身勝手な判定)。たいていが脂っぽくて、しつこく感じるものが多かった中で、阿香婆はあっさり・さっぱり系である。友人の一押しはMcCormickのもので、こちらはとろみをつける澱粉付なので、出来上がりの形状は日本の麻婆豆腐の素に近い。脂っぽさも少なく、日本人が感じる「本場の麻婆豆腐」に一番近いのではと思われる。

   中国の麻婆豆腐に慣れると、日本の麻婆豆腐が物足りなくなる。中国生活数十年の友人も「日本のインスタントの麻婆豆腐は甘くて食べられない」と言う。辛さだけでなく、その差のもとは花椒(ホアジャア)である。麻婆豆腐その他、四川料理を食べると、独特の鼻をつく味とピリピリと舌を刺激する感覚がある。日本人だと「あ、サンショウだ」と思うが、日本のサンショウとは同属別種のカホクザンショウだそうで、英語ではSichuan pepper(四川の胡椒)。この花椒の風味が、日本と中国の麻婆豆腐の味を決定的に違ったものにしている。中国のどのインスタントの素も、花椒がたっぷりと効いていて、この刺激がないと、物足りなくてどうにもならない。

   先日、日本の家族から届いた荷物に、日本のA社の麻婆豆腐の素が入っていた。日本産の食材は海外では貴重な高級品である。が、この素で作った麻婆豆腐は、辛さもだが、花椒の風味がぜんぜんなくて麻婆豆腐という気がしなかった。結局、出来上がったものに花椒の粉をふりかけてやっと食べた。日本の食品メーカーさんに強く提案したい。麻婆豆腐の素にがんがん花椒を入れてください。

悩むほど多い豆腐の種類


使い道に悩むほど種類が多い豆腐。漢字から用途を類推する
ローカル色の強いスーパーの豆腐コーナー。左から自家製豆腐、豆乳(袋詰め)、右のケースは豆腐皮や油揚げに似た製品

   さて、麻婆豆腐の主役は豆腐である。中国の豆腐には大別すると「北豆腐」と「南豆腐」があり、北豆腐は中国北部の固めの豆腐、南豆腐は柔らかい豆腐……なのだそうだ。しかし「南豆腐」という名称で売られているものには北京でまだお目にかかったことがない。北京の大手スーパーで販売されている豆豆厨というメーカーのものには、「北」「炒」「?」「拌」「涼」「湯」という種類があり、どれをどう使うのかに悩む。「北」「炒」「?」は固くて、日本の木綿豆腐をもっと水分をもっと少なくした感じなので、こちらが北豆腐、「拌」「涼」「湯」は絹ごし豆腐のように柔らかいので、南豆腐の範疇になるのではと思われる。それ以上の細かい区別がよくわからないが、漢字から「炒」は炒め物用、「湯」はスープ用だろう……などと類推している。北京のレストランの麻婆豆腐はやわらかい豆腐を使っているが、切りやすいこと、箸で食べやすいことから、邪道なのかもしれないが、固い豆腐を使っている。

   欧米人が行くような西洋型スーパーでは豆豆厨のパック入り豆腐しか売っていないが、地元の人が買い物するスーパーでは、その場で作った豆腐が売られている。これが、非常においしい。うまくタイミングが合うと作り立てのほかほかしたものが手に入り、おもわずかじってしまう。大豆の味が濃く、これで作ると麻婆豆腐も味が違う。保存料が入っていないか少ないのも、関係しているのだろう。豆豆厨のパック入りは20日間も保存できるので、いったいどれだけ保存料が入っているのかと心配になる。しかし西洋化の波で地元の人でもパック入りを買うようになったのか、近所のスーパーからこの自家製豆腐が消えてしまったのが、非常に残念だ。

小林真理子

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