【書評ウォッチ】皮肉る、癒やす、笑いとばす 楽しめるユニーク漫画

【2012年4月29日(日)の各紙から】大人向けのユニークな漫画を朝日と読売が紹介している。現実を皮肉る、癒やす、笑いとばす漫画、コミックの世界。世相をきる鋭さや深さを、それぞれに感じさせてくれる。

   「僕の場合は現実から目を背けたくて、まず癒しをもとめてしまう」と、公認会計士の山田真哉さんが読売で語る。その4コマ漫画は『すもうねこ』(リブレ出版)。

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現実とリンクしながらの世界に癒される

   舞台は現実の相撲界。ほかの登場人物はみな人間で、主人公だけが猫。酔った親方が体格のよさにほれ込み、スカウトして部屋に連れ帰ったのがはじまりだ。猫は稽古に精進し、十両に上がり「すもうねこ」というしこ名までもらう。通称、ねこ関。野球とばく、暴力事件、八百長問題など実際に起こった荒波が描かれている。現実とリンクするあたりや、どうもありそうな出来事が売りだ。

   ねこ関は、一貫して自然体。「これがなんとも読み手を癒してくれるのだ」と山田さん。いつも通りの態度で、頻発する困難に立ち向かう。少しずつ理解者を増やし、番付も徐々に上げていく。「激動の世界に身を投じつつ泰然自若と生きる彼を、ぼくは勝手に同志と思い、また理想の社会人として尊敬している」のだそうだ。

   ストレス時代の生き方を、そうもうまくはいかないとしても、やってみたくなる。その気にさせれば、漫画は成功し、読者は少し救われる。著者は「はすまる」と名乗る人らしいが、紙面にない。著者名を書名のそばに載せる礼儀を忘れちゃいけない。

中年期のオタクが中国美人と異文化婚

   朝日は、『中国嫁日記』(井上純一著、エンターブレイン)。40歳すぎの「どうしようもないオタク」がひょんなことから20代の中国人美女と見合い結婚する。想定を超えた「嫁」の異文化ぶりを漫画化した著者のブログは1日4万ヒットを超えたという。

   ただの異文化婚ものではない。オタクといわれた若者たちが中年期にさしかかって結婚したときに何が起きるかをも垣間見せる。ここを評者の精神科医、斎藤環さんが指摘している。「著者自身のオタク性も十分にヘンなのだ」「自身を批評し笑いのめすというユーモアこそ本書の真骨頂だ」と、この評価、けっこう高い。

   国際間や世代間のギャップ、一般人とオタクの境でおきるギクシャクは、もともと漫画の得意な題材。それは漫画やフィクションの世界よりも早く現実に起きていて、そこに漫画がピタリと身を寄せてきた。だから、大人の読み物になったのだ。楽しめる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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