【書評ウォッチ】放浪の天才画家・山下清 絵と人柄と足跡を知る

   【2012年5月20日(日)の各紙から】昭和の日本を歩いた天才画家の足跡をたどる『山下清の放浪地図』(山下浩監修、平凡社)について、朝日と毎日が記者による書評を載せた。生誕90年。若い世代には知らない人がいるかもしれない。「そんな時期にふさわしい一冊だろう」と朝日、「図版や解説が充実し……絵そのものや、その人柄がうかがえて楽しい」と毎日にある。学者が書く論文調の独りよがりな原稿よりは、よほどわかりやすい内容だ。

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「有名すぎて過小評価」の作品を再評価


『山下清の放浪地図』

   山下清はドラマなどでつくられた「裸の大将」のイメージが、すっかり定着。人なつっこい、純粋、ほのぼの。今回は作品そのものを正面から再評価しようというのが、2紙に共通した姿勢だ。「知名度がありすぎたゆえに、絵画史上もっとも過小評価されてきた一人」という写真家・編集者、都築響一氏の言葉を本の中から朝日が引用している。

   東京大空襲後に制作した「東京の焼けたとこ」で描かれたのは、空に伸びる不気味な煙突と焼死体。黒々とした筆触が現実離れした印象を残すペン画もある。

   富士山や花火大会などを同じ密度で貼り込んで描き出した貼り絵も。「奥行きに欠ける素朴派らしい画面の一方、細かい粒子による組み立ては、ポスト印象派の点描にも通じて見える」とする朝日の評は、驚異的な細部と全体的なおおらかさと温かみを強調。山下清は「よい景色」を求めて歩いたが、「観光客のように景色に身を置くだけでなく、よく見る。それがのちに絵となり、絵を通して何がよい景色であったのか知ることができる」と、毎日の評。

大作家に贈った大絶賛は?

   ほかには、日経の「あとがきのあと」コーナーにある『放送禁止歌手 山平和彦の生涯』(和久井光司著、河出書房新社)がおもしろい。アルバムの収録曲がわいせつだと発売禁止にされたフォーク歌手の記録。故郷の秋田民謡を取り入れた独自の曲作りや引退後も人を引きつけたカリスマ性を52年の人生に寄り添うように、さまざまな逸話と証言を積み重ねて書いたという。

   『快楽としての読書』(丸谷才一著、ちくま文庫)を読売が。書評とは「本好きが本好きの友達に出す手紙みたいなもの」という名言を紹介している。ただ、編集委員氏の原稿は最後まで、よくもこんなにというぐらい絶賛が続く。大作家の業績は大きく、それだけの価値はあるのだろうが、批判とまでいかなくても少し角度をかえた見方や分析を提起するのが新聞と新聞記者の役割だろう。ゴマすりもここまでいくと、笑えた。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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