「なんて身勝手な」「自閉症では」──違うんです 当事者が実体験語る『アスペルガーの館』

   ここ数年、「アスペルガー」という言葉が流布するようになった。スティーブ・ジョブズがアスペルガーだったという人もいる。

   アスペルガーとは、先天的に脳機能に問題が起きている発達障害のひとつで、知的障害をともなわないが、相手の気持ちを推し量れない、物事に極端にこだわるなど、対人関係で大変な苦労を強いられる。またアスペルガーの人は、才能を見事に開花させる人もいるが、周囲からは障害を持っていることが見えにくいため「なんて身勝手な奴なんだ」というような誤解を受けやすい。

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「アスペルガー」の筆者、現在は「言語聴覚士」として活動


『アスペルガーの館』

   このほど(2012年4月)、自身もアスペルガーである村上由美氏が著した『アスペルガーの館(やかた)』が、講談社より刊行された。

   本書は、アスペルガーの当事者によってその実態が描かれた、他に例のない作品である。

   著者の村上由美氏は、幼いときから落ち着きがなく、自分の欲求がかなわないとパニックになって激しく泣き叫んだという。心配した母親が大学病院や心理療法の専門家を訪ね回ったところ、ある先生に「自閉症ではないか」と指摘された。そして、自閉症という言葉もまだ一般的ではなかった幼い頃から、専門家や母親の「療育」を受けて育った。

   その甲斐あって、公立中学・高校を経て大学で心理学を学んだ後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(当時)に進み、現在は「言語聴覚士」として活動している。

   そして声に関するセミナーや、発育・発達相談、原稿執筆、テレビ出演や講演などまでこなすに至っている。

「見えない障害」を広く世に

   また私生活では、「アスペルガーの館」というサイトを通じて知り合った、やはりアスペルガーである夫と結婚。本書では、夫との意思疎通の苦労、共同生活を送る上での工夫についても包み隠さず語られている。

   本書は、いわば、アスペルガーの「当事者」であり、「家族」であり、「支援者」であるという、3つの立場をもった著者が「見えない障害」を広く世に伝えるために筆をとった貴重な一冊だ。

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