【書評ウォッチ】ブームの古事記に今風の本 絵物語や受容の歴史

【2012年6月3日(日)の各紙から】現存最古の歴史書『古事記』の関連本出版が、いま相次ぐ。今年が編さん1300年というので、712年成立説への疑問もそっちのけでにわかにブームの様相だ。島根県や宮崎県、奈良県では「神話の国」の観光イベントまで企画。古事記が「利用され悪の道に引きもどされてはたまらない……きちんとした情報と知識を提供することが必要」と、古代文学研究者の三浦佑之さんが読売読書面でズバリ。戦前国家観の根拠に使われた過去がつきまとう古事記をどう読むか。けっこう面白い古典中の古典は、今風のやさしい本も出ている。

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「私たちの側から読むのがいい」


『ぼおるぺん古事記 一 天の巻』

   『ぼおるぺん古事記 一 天の巻』(平凡社)は、漫画家こうの史代さんによる絵物語。スサノヲのヲロチ退治までを収めている。神々しくはないユーモラスな神たちが活躍する。「神話を忠実に追っている。しかも筋をなぞるだけでなく、こうのの解釈が興味深い」と三浦さんの評価は高い。

   広島生まれのこうのさんは、ほのぼのとしたタッチで原爆や戦争を鋭く描いたことで知られる。個性的な絵に、読者は場面を想像して楽しく読めそうだ。

   斎藤英喜・佛教大教授の『古事記 不思議な1300年史』(新人物往来社)は、古事記がどう扱われてきたかを論じた研究で、受容の歴史をわかりやすく語る。

   この著者は『荒ぶるスサノヲ、七変化』(吉川弘文館)でも、混沌とした中世にスサノヲという神様がどのように語り変えられていったかを掘り下げる。

   評者の三浦さんは「国家や天皇の側から読むのでなく、私たちの側から読むのがいい」と、読者にも冷静な姿勢を求める。敬語ばかりの現代語訳は敬遠しよう、日本という語をくり返す入門書は避けたほうがいいといった注文も記した、異色の書評になっている。

復興支援にマンガ家27人の力作短編集

   ほかに特筆したいのは、『僕らの漫画』(小学館)だ。「東日本大震災復興支援チャリティーコミック」と銘打ったアンソロジー。喜国雅彦、三宅乱丈ら27人が無償で描き下ろした短編28本がずらり。「今どきのマンガのショーケース」と、朝日コミック欄でマンガ解説者の南信長さんがすすめる。

   震災自体を描いた作品はほとんどない。涙の感動ドラマもない。が、「怒り、悲しみ、迷い、祈りのようなものは底流として当然ある」「浮かび上がってくるのは、やはり希望だ」と南さんは言っている。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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