【書評ウォッチ】資源と環境を食いつぶす人間の「食と農」

【2012年6月17日(日)の各紙から】食べなければ、人間は生きていけない。しかし、食べることで動植物だけでなく、それを運ぶために石油を使うなど、資源と環境を文字通り食いつぶす。さてどうするかという本『食と農の未来』(佐藤洋一郎著、昭和堂)が東京新聞に。ヒントの一つが、糖質とタンパク質は実は同じところで生産されて食文化を形成している「同所性」にあるそうだ。一方、地域資源を活用して再生をという視点の本を日経が紹介している。

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自然の有機的システムというけれど


『食と農の未来』

   身体をつくるタンパク質、たとえば牛肉1キロを生産するために必要なトウモロコシは10キロ以上。マグロの握り鮨一貫でも、輸送に大きなエネルギーがいる。安いインスタント食品でも生産、加工、流通には石油などが大量に消費される。それが現代生活だというのが著者の指摘だ。

   「食べること自体が地球資源や資源にダメージを与えるとしたら? わたしたちは、どのようにしたらその矛盾を克服することができるのだろう」と、東京新聞の評者・エッセイストの平松洋子さんは問いかける。

   この矛盾をさまざまな視点から考える本なのだが、強調する「同所性」は、稲の風土では「コメと魚」、麦の世界では「麦・ジャガイモ・肉・ミルク」、ありのままの自然はおのずと人間を生かすように機能しているという示唆。スローフードや地産地消を金科玉条のように唱えるのではない。「自然や人間の生命が有機的なシステムに基づいていることを知れば、自分の食文化に勇気づけられる思いにもなる」と平松さんは受けとめている。

「地域の中で産業を」の行動を紹介

   根源的な問いかけだけに、回答としては、この書評だけではうなずけない。「食」と切り離せない「農」をしっかり考えようという本を読んで、本気で考えろということらしい。

   輸送などにエネルギーを食われていては従来の繰り返しだとは、誰でもわかる。人口減少・高齢化の時代にピタリあった問題提起ではある。従来の企業誘致に頼る地域づくりはとっくに行き詰まった。そこで、「地域の中で産業を興そう」と、これも誰だって考える。

   日経に出た『新地域産業論』(伊藤正昭著、学文社)は、豚の育成、加工販売、レストラン展開の事例を紹介。『農商工連携の地域ブランド戦略』(関満博、松永桂子編著、新評論)は農家女性が取り組む農産物産直所を例にあげる。「地域の人材が自ら行動する」ことを評者の鎌形太郎氏もすすめている。ただ、なにやら小難しい学者文。もう少しやさしい言葉で書いたらどうか。読書欄の相手は学者でない、普通の市民だ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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