【書評ウォッチ】現代は誰もが「借金人間」 負債に支配される人と国

【2012年8月5日(日)の各紙から】人でも国でも、持ちたくないものは借金だ。負債とか債務とか財政赤字とか、どう言葉をかえても本質は変わらない。利払いに追われて、がんじがらめになり、行動の自由を阻害される。「負債が世界を支配している」というメッセージをこめたのが『<借金人間>製造工場』(M・ラッツァラート著、作品社)だ。京都大学の根井雅弘さんが思想の問題として、東京新聞でとり上げている。

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危機につながる「思想」の問題


『<借金人間>製造工場』(M・ラッツァラート著、作品社)

   著者は経済学者ではない。哲学者・社会学者だ。その関心は経済の表面的な現象ではなく、それを作り出す「思想」にあると評者は読む。

   社会主義崩壊後に「新自由主義プログラム」がもてはやされたが、すべての人間を「借金人間」(ホモ・デビトル)にしてきたという。そこにできた債権者と債務者の権力関係がいきづまった結果、金融危機が発生。体制そのものが危機に瀕する。欧州の経済危機が極端な例だろう。経済書ではないので具体的な処方せんはないものの、「人間がコントロール社会の<借金人間>となった思想的背景を知るには格好の本」と評にある。

「需要が無理やり作られている実態」

   この欄は「もう一冊」として、鶴見済著『脱資本主義宣言』(新潮社)も付随的に紹介。需要が無理やりに作られている実態から、グローバル経済の問題点を突くという一冊だ。

   グローバルどころか、ひどいのは日本で、消費税値上げでいくらかなりと補うはずの財源を、旧来型の大型公共事業に一部回しそうな形勢だ。借金政策から脱するのはいつの日か。こんな政治自体が「借金人間・国家の巨大な製造工場」なのかもしれない。

   暑い夏休みこそ読書の季節。いささか古いパターンだが、入道雲を仰ぎながら「極上の読書生活を」と、読売が2ページ見開きで「夏の1冊」を特集した。

   深沢七郎『笛吹川』(講談社文芸文庫)、ヘルマン・ヘッセ『車輪の下で』(光文社古典新訳文庫)、『地球博物学大図鑑』(東京書籍)、『さまざまな8・15』(集英社)などを、それぞれ作家の朝吹真理子さん、日本文学研究者のロバート・キャンベルさん、カキ養殖業の畠山重篤さんら読書委員がすすめている。

   どれも魅力的な本の選択と紹介だが、最後に「よみうり堂店主」と称して、担当記者の一人だろう、箱根駅伝関係の一書を載せた。駅伝や本そのものの内容は別として、自社共催イベントのPRをこんなところで図々しくしている。ケチなことをするな、良い特集なのだから。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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