【書評ウォッチ】縛られずに働く「ノマド」スタイル 安定か自由かの大問題

   働き方や生き方を見つめる企画や研究が、関心を集めている。「ノマド」という言葉もそこから流行し始めた。遊牧民のこと。転じて、遊牧民のように何にも縛られず、自由に働く仕事のスタイルをさす。関連本が日経読書面のトップ記事に。同一企業に長期継続勤務を意味する行政用語「標準労働者」を対極に、問われているのは「日本人全ての働き方であり、社会保障を含めた社会のあり方なのだ」と評者の社会学者・古市憲寿さんがまとめている。【2012年9月2日(日)の各紙からII】

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「脱サラ」以来渇望の生き方


『現代日本の転機』(高原基彰著、NHK出版)

   新しい言葉ではない。『ノマドの時代』(黒川紀章著、徳間書店)は情報化時代には個人と個人が特定の目的でつながる生き方が当たり前になると、20年以上前に予測した。似た概念に、40年以上前から「脱サラ」があった。会社に雇われずに自由に仕事をするという意味なら、「フリーター」「フリーランス」「インディペンデント」も実質同じ。「日本人たちは常に自由な生き方を渇望してきたのだ」と評者はいう。

   その一方、「標準労働者」がごく普通という安定社会でもあった。『現代日本の転機』(高原基彰著、NHK出版)によれば、戦後日本は「会社による安定」と「会社からの自由」の間で激しく行き来してきた。

   安定を得るためには自由を差し出さなければならない。それが「自由な働き方を求める議論が流行し続ける理由だ」と評者。「自由が価値を持つのは、安定が当たり前のように存在する時だけだ」とも。この解釈には異論が出るかも知れないが、たしかに一つの考えではある。「自由に働くことには相応のリスクが伴う」ことも否定できない。

会社が減って働き方はノマド的に

   どちらにせよ、『社会を変えるには』(小熊英二著、講談社現代新書)にあるように、ピラミッド型の会社組織は減り、働き方は多様化していく。「望むと望まざるとにかかわらず、日本人の働き方はノマド的にならざるを得ない」というのが評者の見方だ。

   もう少し広いスタンスの「生き方論」としては、直接の働き方からやや離れるが、『少しだけ、無理をして生きる』(城山三郎著、新潮文庫)を読売の小さなコーナーがすすめる。時流や権威に流されない、気骨ある生き方をした人々を描いてきた著者が、広田弘毅ら政財界のリーダー像を通じて人間の魅力を語る。

   「みな現状に満足せず、広く関心を持ち、生涯、少しだけ無理をして生き、自分の器を広げていった」と、「飼」一文字署名の記事にある。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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