【書評ウォッチ】本を読まない若者に「これはどうか」 出会い演出するソムリエ

   本の選び方と薦め方、読書欄にも新聞それぞれの特徴がある。なかでも読売は読者の投書を重視して、質問に識者が答えるスタイルの記事をよくトップにおく。タイムリーな問題をとらえて学者らの書評を載せる朝日とは対照的な構成だ。どちらも消化不良なこともあるが、今週の読売は本を読まない若者向けに「これはどうか」と解説して、第三者にもわかりやすくまとめた。流行本や新本の紹介とは角度を変えた選択の仕方を提示し、若者の読書論にも通じている。【2012年9月16日(日)の各紙からII】

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「魂が震えるような情熱」をあなたに


『古代への情熱 シュリーマン自伝』(新潮文庫)

   質問は京都市の主婦(45)から。テレビの歌番組が大好きな中学3年の息子が、読書をしていない。「思い出の本を何か一冊」という相談に、ノンフィクション作家の奥野修司さんがある大学医学部の話をまじえて答える。

   医学部の学生たちに、ここ一ヶ月間に読んだ本について聞いたところ、全員が専門書を挙げ、小説を読んだ人はいなかったそうだ。「なぜ専門書ではいけないのか? それは、感動を与えてくれないからです」と奥野さん。感動は人生を豊かにし、とくに思春期の感動が必要だと語る。「まずあなたの情熱を覚醒させましょう」と薦めるのが、『古代への情熱 シュリーマン自伝』(新潮文庫)。

   シュリーマンが少年時代に抱き、当時は空想と思われていたトロイ発掘の夢を、大人になってやり遂げる歴史的物語。「きっと忘れていた情熱を思い出せてくれます」という。

   ジャン・ジオノ『木を植えた人』(こぐま社)は、何十年もの間、たった一人で荒れ地に木を植え続け、森をよみがえらせた農夫の生涯を描く。新田次郎『アラスカ物語』(新潮文庫)は、食糧不足や疫病からエスキモーを守った日本人の話だ。

「孤独は強いことなんだ」と教えられた

   「共通するのは、富や力ではなく、魂が震えるような情熱なのだ」と、奥野さんは強調する。記事のタイトルは「本のソムリエ」。よい読書との出会いを演出する。

   若者向けの本については、朝日も俳優・宮崎美子さんの話を構成して載せている。高校1年生の時に友だちの薦めで読んだという『草の花』(福永武彦著、新潮文庫)。

   手術を受けて亡くなった青年がノートに記した、ひそかに思いを寄せる女性とのやりとりが「愛」「孤独」といった思春期にきらめくテーマを語る。「孤独はひとりぼっちじゃない、強いことなんだと教えられました」と宮崎さん。いま青春の人も、昔そうだった人も、こういう気持ちを振り返ってみるのもいい。わかりやすい記事が助けてくれる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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