【書評ウォッチ】消費者不在「技術神話」の罠? どうした日本企業

   日本経済の不調は、もう長い。シャープやソニーの凋落。「どうしちゃったの?」とユーザーとしては問いたくなるが、さまざま考えられる要因の一つがヒット商品のなさだろう。技術開発のどこに問題があるのかを追究した『新しい市場のつくりかた』(三宅秀道著、東洋経済新報社)が毎日新聞に載った。

   レベルの高さを自他ともに認めていたはずなのに、その技術自体に原因があるという。著者はもちろん、「素朴な技術を使いこなしてもできるような新商品開発をしなくなった」と評者・松原隆一郎さんの嘆きまでが聞こえてくる。【2012年11月18日(日)の各紙からII】

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スティーブ・ジョブズのこだわり


『新しい市場のつくりかた』(三宅秀道著、東洋経済新報社)

   著者はここ十五年で中小企業を中心に千社を訪ね、聞き取りをしてきた。本は余談を交えつつ、なぜ日本の大企業が新製品開発につまずいているかを解き明かそうとする。

   問題は技術陣の考え方。著者によれば、日本の技術者は薄型テレビをさらに薄くする効率化や同一商品のコストダウンにとらわれすぎ。新市場が開発された直後には有効だが、市場が成熟した後には病でしかないというのだ。技術神話の罠だ。

   評者はスティーブ・ジョブズ氏の例を引く。細かな改善よりユーザーにとって快適で美しい商品開発にこだわった。その製品は、うけた。反対をいったら、売れはしない。

   そういえば、身近にも思い当ることはある。やたらとマニアックな、優れてはいるけれど一部にしか使われそうにない技術がちらほらと。あまり必要ない機能まで過剰に備えている面がありはしないか。車は動く、テレビは映る、基本性能に多少の周辺機能だけでいいという人間に、技術者の「趣味」まで買えと言ってもなあ。

方向を間違えると足かせに

   「韓国や中国の安物でも十分に使える」という、極端なユーザーが増えるのもうなずける。どんな技術も使いよう。方向を間違えれば、経済全体の、ときに足かせになりかねない。その愚を日本のメーカーがやらかしたということだろうか。

   技術開発に関連しては、「イノベーションの100年」が日経読書面のトップに。「モノをサービスで大きく包んだコトづくりという視点が見直されている」と、評者・専修大の西岡幸一さんが指摘。ここに載った『リバース・イノベーション』(V・ゴビンダラジャンら著、ダイヤモンド社)は朝日読書面にも。途上国向けの製品開発が先進国にも及ぶ話。経済界に対応を促している。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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