福島原発事故後、米海軍は「撤退」を主張した―― 船橋洋一氏が「世界を震撼させた20日間」に迫る

   福島第1原発事故発生から4日後、在日米軍によるある「放射能情報」に接した自衛隊統合幕僚監部の参謀のひとりは、こんな恐怖感に見舞われた。「ひょっとしたら東日本、東北から関東は人が住めなくなるのかな」。そのとき、日本で何が起きていたのか――

   元朝日新聞主筆、船橋洋一氏のノンフィクション『カウントダウン・メルトダウン』(上下、文藝春秋)は、福島原発事故後の「世界を震撼させた20日間」について、多方面にわたる徹底した取材をもとに描いている。日本からの撤退をめぐる米海軍と米国務省の対立など、生々しい逸話が数多く出てくる。

Read more...

問われた日本の「国の形」と「戦後の形」


『カウントダウン・メルトダウン』(上)

   例えば、ウィラード太平洋軍司令官とスタインバーグ国務副長官が、ホワイトハウスで激しく対立する場面が描かれている。軍人・軍属の健康と安全を最優先し、「一刻も早く退避勧告を出すべきだ」と主張する司令官に対し、副長官は、米大使館の移転や米海軍の横須賀基地からの撤退は、東京だけでなく日本中でパニックを招きかねず、日米同盟の将来にも禍根を残すと譲らない。その後、緊迫する議論に結論が出た瞬間とは……。

   船橋氏は、政府から独立した科学者やジャーナリストらからなる「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)をプロデュースしたことでも知られる。2012年2月に同委員会の調査・検証報告書を発表して以降、「一記者」として取材を続け、当時、事故対処に取り組んだ人々の「個々のストーリー」を追った。

   船橋氏はあとがきで、「福島第一原発危機は、究極のところ、日本の『国の形』と日本の『戦後の形』を問うたのである」と総括している。

   あのとき、フクシマで、日本政府内で、米国で、何が起きていたのか。政府や国会などの各種事故調査報告書では明かされなかった数々の「ストーリー」が浮かび上がってくる力作となっている。2013年1月26日、発売された。上下各1680円。

注目情報

PR
追悼