霞ヶ関官僚が読む本
若者世代へまわってくる「大きなつけ」 「財政破綻危機」なぜ対応が進まないのか

   天然キャラが魅力的な能年玲奈さん主演のNHKの朝ドラ「あまちゃん」は、視聴率20%前後と絶好調だ。6月第1週「おら、スカウトされる!?」では、海女カフェの話が楽しく展開された。あまちゃんのご当地でのネームバリューで、金融機関から2000万円の事業資金の融資を首尾よくうけることができたが、みんなで思い思いに希望を出し合ったところ、必要額が2億4000万円となってしまい、帳尻が全く合わない。そこで、予算内であげるため、大型水槽を断念するなど計画を大幅変更、自ら店舗の改造作業を行い、オープンの運びとなった。

   不思議なのは、自分の事業では当たり前の「帳尻が合う」ことに、国の話になると皆鈍感になることだ。毎年収支の帳尻がぴったり合う必要はないが、借金を除いた歳入(収入)に比べ、歳出(支出)があまりに大きければ、借金がどんどん膨らむ。借金の残高が巨額になれば、国家でも本当に返済できるのか疑念が生じ、国の借用証書(国債)や、それを裏打ちに日本銀行が発行しているお札(日本銀行券)の価値が暴落する。お札などが紙くずになるというのは、これまでの金融・社会秩序、いわば世間が崩壊することに他ならない。社会が動揺し、ナチスのような極端な主張が力を得たのが、第二次世界大戦前の、当時最も民主的な憲法を持つはずのドイツでの歴史である。「殷鑑遠からず」とはこのことだ。

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世代間不公平と財政健全化、成長戦略の関係


『アベノミクスでも消費税は25%を超える』

   若者や次の世代の日本人のことを思えば、将来そんな事態に陥ることのないよう努めるのが、今を生きる中年以上の日本人の道徳的責務だろう。一方で、若い世代はこのままでは自分たちに大きなつけがまわることを怒るべきだ。影響力の大きい団塊の世代は、日本の財政破綻を先送り可能なことを奇貨として、この問題の直視を避けているようにみえる。

   実態分析や展望をわかりやすく行い、若い世代を代表する意気込みで、現状に警鐘を鳴らしているのが、若手経済学者の小黒一正法政大学准教授の新著『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHPビジネス新書 2013年)だ。小黒准教授には、すでに『2020年、日本が破綻する日~危機脱却の再生プラン』(日経プレミアシリーズ 2010年)があり、財政問題に焦点をあてて世代間不公平と財政の持続可能性のための方策を提示していた。今回の新たな著作では、「デフレ脱却に向けての処方箋」や「日本経済は復活できるのか」という、財政健全化と両輪の成長戦略についても考察が加えられ、より包括的な著作となった。

アベノミクスがうまくいくだけでは、どうにもならない

   なぜ、対応が進まないのか。小黒氏は、「はじめに」において、「人はだれしも行動や思いに不一致があると、みずからの心の中に不協和が生まれる」が、「そのような不協和は人にとって不快であるため、それを低減または解消しようとする心理作用が働く」とする社会心理学における「認知的不協和」の理論を紹介し、それが背景にあるのではないかとしている。カエサルが喝破した「人間はみずからが望むことを喜んで信じる」をひく。

   経済学は、人生の中で、楽しくない、いやなことを予測する学問のため、陰鬱な科学(dismal science)と呼ばれている。小黒准教授は、「認知的不協和」を脱するために、その経済学の標準的な理論枠組み・手法を駆使して、日本の経済・財政の現状をあらためて浮き彫りにした。アベノミクスがうまくいくだけではどうにもならないという重い現実を直視すべきと主張する。『国債の歴史~金利に凝縮された過去と未来』(富田俊基著 2006年 東洋経済新報社)は、国債に関し我田引水の話が多い中、歴史的な視野を正確に得られる貴重な労作だ。

経済官庁B(課長級 出向中)AK

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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