ビジョンを持って研究開発に取り組む、
モンサントのカルチャーで世界のニーズに応えたい
日本モンサント 山根精一郎氏に聞く

   米ビジネス誌「フォーチュン」が毎年選出している「World's Most Admired Companies(世界で最も賞賛される企業)」の業種別ランキングで、2017年、「Chemicals(化学部門)」2位となったのが、米国のバイオ企業モンサント社だ。

   遺伝子組換え作物や独バイエル社による買収などの話題が先行し、企業としての姿が見えにくいモンサント社だが、一体どのような組織なのか。モンサントの日本法人である日本モンサント代表取締役社長、山根精一郎氏に話を聞いた。

取材に答える日本モンサント・山根精一郎社長
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研究とマーケティングの革新性こそがモンサントの原動力

――2017年の「World's Most Admired Companies」、「Chemicals」第2位にモンサントが選出されましたが、どのような点が評価されたと考えていますか。

   モンサントが「World's Most Admired Companies」に選出されるのは、今回で4年連続となります。ランキングは企業調査にとどまらず、他企業の経営者やアナリスト1万5000人が、対象となる企業の「革新性」「製品の質」「才能ある人材の定着率」「地域社会と環境に対する責任」を評価することで選出されますので、私どもの製品はもちろん、生産者や消費者を含めたステイクホルダー、従業員、社会、環境と真摯に向き合い、研究開発に取り組んできた姿勢を認めていただけたのではないかと思います。

――モンサントは売り上げの約10%を研究開発に投資すると聞いています。この研究開発力こそ、モンサントの「革新性」の源なのですか。

   モンサントは研究開発に大きな投資を行っており(昨年度の実績で約1,500億円)、それによって独自性と革新性を備えた技術開発力を持っています。さらに、マーケティング戦略の革新性も大きな強みとなっています。農作物の種子の価格は毎年改定されますが、一般的には研究開発のコストが上乗せされ、800円の種子であれば900円に、と今までよりも高い価格になります。しかし、モンサントは種子の価格よりも、収量増や作業の効率化によって得られる生産者の利益を基に価格を設定しています。こうしたビジネスモデルの構築は、かつて除草剤の「ラウンドアップ」に耐性を持つ(ラウンドアップをまいても枯れない)大豆を開発した際、種の価格をいくらに設定するのかという点について、まったく新しい発想で、製品の価値(価格)設定において、その製品を使うことで生産者が得られる利益をまず算出し、その利益の一部を製品代金としてバックしてもらうという、win-winの関係性を築くビジネスモデルを考え出しました。

   もちろん研究開発においても、モンサントがこれからの事業の柱とみなしている「育種」「植物バイオテクノロジー」「データサイエンス(精密農業)」「作物保護(化学農薬など)」「農業用生物製剤」、5つの分野すべてで、革新性の高い成果をあげています。

   「育種」では病気への抵抗性をもったさまざまな品種を開発し、「植物バイオテクノロジー」ではラウンドアップに続く除草剤「ジカンバ」に対する耐性を持った大豆や綿の商品化の目途がつきました。「データサイエンス」では従来の精密農業ソフトウェアに加えてより広く生産者のニーズに応えた新たな製品も登場し、「作物保護」「農業用生物製剤」でも実用化に向けて大きく研究が前進しています。

   このようにマーケティングと研究開発、革新的なふたつの要素が両輪となりモンサントの成長の原動力になっているのです。

大きなビジョンを共有し研究開発の統合を進める

――成果を上げつつある研究開発は、今後どのような方向へと進むのですか。やはり、遺伝子組換え作物に注力するのでしょうか。

   モンサントは、以前から掲げている大きな目標として、「2030年に2010年の大豆・トウモロコシ・綿・ナタネなどの作物の収量を倍にする」というものがあります。この目標は非常に大きく、どれほど優れた研究開発力があっても、育種や遺伝子組換えなど単独の技術だけで達成することは容易ではありません。5つの研究開発分野を統合し、総合的なソリューションを提示することで初めて実現できるものです。各分野で成果が出始めた今、次はこれらの分野の統合をどのように進めていくのかが重要なテーマになるでしょう。

   「事業の柱」という考え方は、ややもすれば「それぞれが個別に頑張って成果を上げればよい」というような方向に陥りがちですが、モンサントはもともと社内の各部門が横断的で、部門の壁を越えてコミュニケーションを取る姿勢があります。この動きをさらに活性化させ、目指すべき共通のビジョンは持ちながらも、それぞれの自主性や個性を尊重し、切磋琢磨する組織づくりを目指していければと考えています。

――2030年には収量を倍増させるというのは、企業の掲げるビジョンとしては、とても大きな話であるように感じます。こうした大きなビジョンを掲げることには何か理由があるのですか。

   モンサントのカルチャーが大きく影響しているのではないでしょうか。企業である以上、単年度の目標というものはもちろんありますが、単年度の目標を追いかけるのではなく、大きなビジョンに向かって単年度の目標が積み重ねられていくべきである、という考え方があり、ビジョンに立ち帰ることで常に目的意識を持つことを大切にしています。そしてそのビジョンは世界のニーズ、生産者の方々のニーズを汲み取り、それらを克服するということに主眼を置いています。

   かつてのモンサントは農薬メーカーでしたが、懸念されている世界の食糧危機を解決したいという大きなビジョンのもと、バイオテクノロジーに注力し種子分野へ進むことを決めました。こうした経緯から、常に20年、30年先のことを念頭に置き、世界がどう変化し、どんな克服すべき問題があるのか、それに対して私たちが貢献するにはどのようなビジョン、目標を持ち、どのような技術が必要なのかを考える、モンサント特有のカルチャーが醸成されたのでしょう。

――モンサントでは社員の職場への満足度も高いと聞いていますが、そうしたビジョンが関係しているのでしょうか。

   ビジョンが明確になっていることで、社員は「自分の仕事は、未来につながるこのゴールを達成するための重要な部分を担っている」と感じています。私たちは「モンサントに勤めているなんて」と言われることも少なくありませんが、「私たちは収量を倍にすることで世界の食糧危機を克服するんだ」という信念を共有していることで、多少の逆風や逆境に陥ってもひるむことなく業務に取り組んでいけるのです。

   また、モンサントは立場に関係なく誰とでも対話ができる非常にフラットな組織です。私たちが会長兼CEOのヒュー・グラントにメールを出せば、本人から直接返信があります。誰と話しても構わないという風通しのよさ、自由度の高さがあり、そんな環境で一人ひとりが同じビジョンを目指す。言われてやるのではなく、自分がやりたいから取り組むという気持ちになるのではないでしょうか。

――今うかがったような、モンサント特有のカルチャーが、バイエルによる買収によって失われてしまうことはないでしょうか。

   現時点ではどのような形での経営統合となるのか何も決まっていない状態ですから、はっきりとしたことは言えません。しかし、モンサントは常にビジョンを大切にしながら研究開発を進めている企業であるということは、バイエルも理解しており、このモンサントのカルチャーは継承されていくと考えています。今回の経営統合はただ2社が1社になるということではなく、種子分野やデータサイエンスを強みとするモンサントと農薬分野を強みとするバイエル、異なる強みを持つ両者が互いの弱点を補い、より強固に新たなシナジーを生み出せるのではないかと期待しています。

――ある程度の規模とシェアを持つ企業同士の経営統合に懸念を示す声もあります。

   まずシェアに関しては、世界各国に独占禁止法がありますので、当然それを順守して行くことになり、そのうえで一定のルールの中どのように拡大していくかを考えていくことになります。一方で、規模の拡大はシェアがどの程度になるのか、そこに応じてということになるかと思われます。巨大な企業が誕生するということに懸念を持つ方がいらっしゃることは理解していますが、規模が大きくなるということは決して悪ではなく、例えば資金力が強化されることで研究開発への投資もさらに強化されます。これまで10年かかっていた研究が、もっと短期間で実現するかもしれません。短期間で実現すれば、私たちにとってはもちろん、生産者の方々にとっても大きなメリットになるものであり、期待していただけるものと信じています。

まずは日本の社会への情報発信を

――欧米では経営統合などで存在感を感じますが、日本ではあまりその活動をうかがい知ることが無いように感じます。日本の農業について、モンサントはどのように考えているのでしょうか。

   日本モンサントは、国内の規制当局から遺伝子組換え作物の輸入のための認可を取ることとを主たる業務としており、日本の農業と直接的に関わる場面がほとんどないのが事実です。非常に残念な状況であると感じていますが、そのような中でも、茨城の試験農場では、地域貢献の一環として米の品種改良を進めています。

   米というのは単位面積当たりの収益が野菜などに比べると低い作物です。したがって、ある程度の収益を上げるためには規模拡大が不可欠ですが、今の移植栽培(苗を水田に植える方法)では20ヘクタール程度が限界で、これよりも拡大するためには直播栽培(種を直接農地に蒔く方法)が必要であると考え、直播向きのおいしいお米の開発を始めました。微々たるものではありますが、日本の農業にも貢献していきたいと考えています。

   将来、日本で遺伝子組換えが受け入れられるようになってくれば、ラウンドアップに耐性を持つ作物のご提案などもできるでしょう。実際に北海道の生産者の方などからは、経営面積拡大のためにも利用したいというお声をいただいています。私たちの技術の確かさ、技術が提供できるメリットを生産者の方々は感じてくださっており、社会状況がもう少し変化すれば、私たちがより一層日本の農業に貢献できる場面が増えることもあるかと思っています。

――一日本の社会への情報発信にも力を入れていくのでしょうか

   まずは少しでも多くの情報を発信し、私たちの思いをわかっていただきたいと考え、フェイスブックやツイッターといったSNSはもちろん、9月からは、ブログである「モンサントジャーナル」も開設しています。「モンサントジャーナル」は日本モンサントが発信するニュースサイトというコンセプトですので、社内情報だけでなく、識者や生産者の方々からモンサントはどのように見えているのかといった第三者目線での情報も発信しています。ご覧いただければ、モンサントについて少しでも理解していただけるのではないかと考えています。

   また、モンサントの除草剤ラウンドアップは、日本の生産者の方々にも多く使っていただいており、効果はもちろんその安全性も理解していただいていると思います。今後はこうした生産者の声を安全性等に不安を持たれている消費者の方にお伝えするコミュニケーションの橋渡しの役も、モンサントが果たしていければと考えています。

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