大橋卓弥、かりゆし58、玉置浩二...
みんなが懺悔し感謝した

   【タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」】

   試験問題風に言えば、「次の曲達に共通する点を2つあげよ」ということになるかもしれない。

   海援隊「母に捧げるバラード」、小椋佳「木戸をあけて~家出する少年がその母親に捧げる歌」、大橋卓弥「ありがとう」、SEAMO「MOTHER」、かりゆし58「アンマー」、萩原健一「九月朝、母を想い」、玉置浩二「純情」などである。70年代の曲もあれば最近の曲もある。題名を聞いただけでは内容が思い浮かばないものもあるに違いない。


「母の歌」はレコード会社5社共同企画「大人のJ-POPカレンダー 365 Radio Songs 5月 東京」に収められている
「母の歌」はレコード会社5社共同企画「大人のJ-POPカレンダー 365 Radio Songs 5月 東京」に収められている
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音楽をやった人間が越えたハードル

   一つ目の共通点は、すぐに見つかるはずだ。

   母親である。様々な形で母親について歌っている。男性のソングライターが、母親をテーマにして書いた曲がそれらである。

   シンガーソングライターというのは、自分の身の回りに起こったことや、日々思うことを下地にしながら作品を紡ぐ人たちである。中にはフィクションのような創作性を得意にする人もいたりするものの、多くは個人的な経験を元にしている。

   それらの歌も、自分の青春や思春期の母親との関係が反映されている。

   音楽をやっている人間の多くが、「親の反対」というハードルを経験している。「勉強もしないで楽器ばかり弾いてないで」とか「音楽で生活出来ると思ってるの」などという小言の洗礼を受けなかった人の方が少ないはずだ。ましてや、地方から上京してきたアーティストがまず超えなければいけなかったのが親だろう。ありていに言ってしまえば「親を泣かせる」ことからその活動が始まっているのかもしれない。そして、そんな母親に対して、自分がどんな仕打ちをしたか、どこかに後ろめたいものとして残っている。

   例えば、大橋卓弥の「ありがとう」は、こんな風に歌っている。

「出来が悪くていつも困らせた あなたの涙何度も見た」「素直になれず罵声を浴びせた そんな僕でも愛してくれた」「今になってやっとその言葉の本当の意味にも気づきました」

ワンテーマで15曲を聴く

   もうお分かりかもしれない。

   それらの曲の二つ目の共通点は「懺悔」と「感謝」である。男の子にとっての母親。反抗する、言うことを聞かない、それがどういうことだったのか。若い頃には、口うるさいとしか思えなかった母親の気持ち。仕事で独り立ちして、家庭を持ち、自分も父親になって初めて分かるようになった時に思う「懺悔」と「感謝」――。

   SEAMOの「MOTHER」のやりとりは具体的だ。朝、起こしてくれと言っておきながら「うるせえ」と怒鳴ってしまった時のこと、学校に行きたくない、と布団を出なかった時に、顔を覆って泣いていた母親のこと、でも、今は「あなたの子供で良かった」と思っていること。最後のオチは胸に迫るだろう。

   かりゆし58は、沖縄在住の4人組ロックバンド。「58」というのは沖縄の大動脈58号線、「かりゆし」は祝い事を、「アンマー」というのは沖縄の言葉で母親を意味している。おもちゃも買えない貧しい中での子育てがどのくらい大変だったか。「ケンカや悪さばかりを繰り返していたロクでもない私」が口にした「決して言ってはいけない言葉」を投げつけた時の対応が逐一歌われている。彼が、自分に娘が生まれた時にどうしたか、それが、その歌のオチになっている。

   その中で一番新しい歌が、2013年に出た玉置浩二の「純情」である。「大バカもので なんのとりえもない」人間にとっての母親の言葉がどのくらい大切なものだったか。「かあちゃん」「おっかちゃん」「おかあさん」と続ける歌の説得力は鳥肌ものだろう。シングルのジャケットは自分の母親と一緒の写真だった。

   そんな風にひとつのテーマで様々な曲を聴けるのは、コンピレーションアルバムという形があってこそだ。今発売中のレコード会社5社共同企画「大人のJ-POPカレンダー 365 Radio Songs 5月 東京」のDisk 1「母の歌」には、そんな曲ばかり15曲が集められている。女性の側からは絢香が東京で活動していて行き詰まって実家に帰った時に母親がかけてくれた「おかえり」が歌になった「おかえり」、小柳ルミ子が母をなくした時に歌った「遠い母への子守唄」、さだまさしが書いた、母親の人生を歌った名曲「秋桜」を夏川りみ。彼の曲ではグレープの「無縁坂」なども収められている。

   5月14日は「母の日」。

   それぞれのアーティストの「母に捧げる歌」。

   自分にとっての母親、そんなことを考えてみるきっかけになるアルバムなのではないだろうか。

(タケ)

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