歯止めのきかない日本の人口減少 目をそらさず「奇跡」を起こすには?

   ■未来の年表 人口減少日本でこれから起きること(河合雅司著、講談社現代新書)

   ■日本への遺言 地域再生の神様<豊重哲郎>が起した奇跡(出町譲著、幻冬舎)



   6月の新刊の講談社現代新書「未来への年表 人口減少日本でこれから起きること」はたいへん注目される1冊だ。著者の河合雅司・産経新聞論説委員は、産経新聞紙上で、毎月第3日曜日に、「日曜講座 少子高齢時代」という大型提言コラムを連載している。このやっかいな人口問題について深く取材を進めるジャーナリストだ。

   本書は、類書のない「恐るべき日本の未来図を時系列に沿って、かつ体系的に解き明かす書物」である。具体的には、第一部で、「人口減少カレンダー」を、2017年から約100年後の2115年まで、年代順に何が起こるのかを示している。

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日本を救う10の処方箋

   本書の帯にあるように、

2020年 女性の半数が50歳超え
2024年 全国民の3人に1人が65歳以上
2027年 輸血用血液が不足
2033年 3戸に1戸が空き家に
2039年 火葬場が不足
2040年 自治体の半数が消滅
2042年 高齢者人口がピークを迎える

などを各種の信頼できる統計資料から示す。

   まさに、日本の少子化は簡単にはとまらず、著者がいう「静かなる有事」(ゆっくりとではあるが、真綿で首を絞められるように、確実に日本国民1人ひとりの暮らしが蝕まれてゆく)が進行しているというのだ。そして、いま「2025年問題」が喧伝されているが、最大のピンチは、上記の「2042年問題」のときで、現役世代が非常に厳しい状況になると警鐘を鳴らす。

   第二部では、日本を救う10の処方箋が示される。基本的な発想は、拡大路線でやってきた従来の成功体験と訣別し、戦略的に縮むことだと喝破する。24時間社会からの脱却、交流人口に着目した「セカンド市民制度」の創設など、どれも画期的なものといえる。

再生するには熱狂するリーダーの存在が不可欠

   一方、個別に見れば、とても勇気づけられる取り組みは既になされている。そこは、大隈半島の中央に位置する鹿児島県鹿屋市串良町柳谷地区。いわゆる「やねだん」とよばれる集落である。補助金に頼らず、サツマイモ、焼酎、唐辛子を世界で売り、自主財源で稼ぐ。このシンプルなやり方で、人口300人の限界集落から「奇跡」が起こった。今ではIターン、Uターンが殺到しているという。

   この集落のリーダー、公民館館長豊重哲郎氏(76歳)の20年間の闘いとその軌跡を辿る、優れた1冊が、「日本への遺言、地域再生の神様<豊重哲郎>が起した奇跡」(幻冬舎 2017年5月)である。著者の出町譲氏の、ベストセラー「清貧と復興」(文藝春秋)から5冊目の本だ。出町氏は、「地域にしても企業にしても、再生するには熱狂するリーダーの存在が不可欠だと思っています。」という。

   それに対する反面教師は、目下、東芝ということになろう。

   「東芝消滅」(今沢真著 2017年3月 毎日新聞出版)は、史上空前の規模の巨額損失を発表した「名門」東芝について、毎日新聞の経済プレミア(毎日新聞が運営するビジネス情報中心のニュースサイト)での連載「東芝問題レポート」をもとに出版された3冊目の本だ。ベストセラー「東芝 不正会計 底なしの闇」、「東芝 終わりなき危機『名門』没落の代償」も併せて読めば、リーダーシップやガバナンスの問題を無視することはできない。「バラ色の世界」にしがみつき、いまだに「有事」にあることを冷静に自己認識できないで喘ぐ名門企業の行く末をしっかり注視していきたい。



経済官庁 AK

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