エルガーの「自作主題による変奏曲」は謎に満ちた「エニグマ変奏曲」

   2週にわたって、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」、ベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」と鍵盤楽器のための変奏曲を取り上げてきました。

   もともとメロディーとハーモニーを一人で弾ける鍵盤楽器は変奏曲を作るのに向いている楽器です。メロディー要素を細分化した展開や、ハーモニー要素を保ったまま新たなメロディーを載せるといった変奏曲の作成方法は、鍵盤楽器とともに発達してきた技法です。

   教会にあるオルガンは即興演奏が必須の楽器でしたし、チェンバロも、アンサンブルの中で低音と和音を即興的に演奏してゆく、という役割がありましたので、ピアノの登場以前から鍵盤楽器は「即興変奏」とともにあったのです。

   クラシック音楽の中で「変奏曲」は、したがって鍵盤楽器作品が多いのですが、管弦楽のためにかかれた作品もいくつか、名作があります。その中で、今日は人気の高い、エルガーの「エニグマ変奏曲」を今日は取り上げましょう。

ピアノの前に座るエルガー
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友達のキャラクターを曲に盛り込もう

   イギリスの近代の作曲家、エドワード・エルガー・・・・以前にも「愛の挨拶」で登場しました。・・・が作曲したこの変奏曲は、正式題名を「自作主題による変奏曲」といいます。

   1898年10月21日、忙しい教師としての1日を過ごして帰宅したエルガーは、ピアノに座って、いくつかのメロディーを紡いでいました。そのうちある一つのメロディーが、妻のアリスの気をひき、ではそれを即興的に変奏してみよう、と思い立ちました。

   しかし、ただ単に、変奏曲として機械的に作るのではなく、各変奏曲に、夫妻が良く知っている友人たちのキャラクターを盛り込もう、という一ひねりを加えたのです。ピアニストの友人を描写するときはあたかもピアノの指慣らしをしているような感じ、精力的な友人を描くときは、速くて急速な曲にしたり、反対にのんびり屋の友人が登場するときには、ほのぼのとした曲想で・・というようにです。

   友人・知人たちだけではなく、第1変奏には妻のアリスも、そして、最終第14変奏にはエルガー自身を登場させました。

   この家庭の団欒から生まれた即興的変奏曲を膨らませて、管弦楽にしたものが、「自作主題による変奏曲」となりました。各変奏曲に、その変奏のキャラクター設定のインスピレーションとなった人物をイニシャルや記号で記したので、エニグマ(謎)変奏曲と呼ばれるようになり、楽譜初版にも「エニグマ」と記されて出版されました。1899年にロンドンで初演されると、瞬く間に評判となり、エルガーの名も国際的に知られるようになりました。

   家庭団欒から生まれた「謎多き変奏曲」は、現在でも演奏会の人気曲となっています。

本田聖嗣

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