西野カナ、平成世代の申し子
携帯がないと生きていけない生活感

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

「私がメールという言葉を使い始めた頃は、まだガラ携だったんです」

   西野カナは、筆者が担当するFM NACK5のラジオ番組「J-POP TALKIN'」のインタビューで、11月15日に発売された7枚目のオリジナルアルバム「LOVE it」の中の曲「スマホ」についてそう言った。


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みんなと同じ生活の中で感じたことを書いている

   ポップミュージックは時代を反映している。その時代の世相や流行、あるいは生活習慣。2008年にデビューした彼女もそんな一人だろう。愛知県の大学に通学しながら音楽活動する生活実感は、彼女の書く詞の中に随所に歌いこまれていた。その象徴的な小道具が「携帯」と「メール」だった。メディアが彼女につけたキャッチフレーズは「携帯世代の歌姫」。CDよりも配信という音楽の聴かれ方の変化と携帯がないと生きていけないという世代の生活感。ラブソングの中の通信手段が「手紙」から「メール」に変わる時代のシンボル的存在になった。

   新作アルバムの中の「スマホ」ではこう歌っている。

「何もかも全部スマホで解決」
「完全にスマホリックス」
「さあみんなそろそろ顔上げstand up」
「スマホが手放せないアイテムになったからこそ、たまにはハンズフリーにして手を叩こう、という歌ですね」

   ガラ携からスマホへ。もう携帯は「メール」のためではなくなっている。

   9月24日、彼女の初の東京ドームコンサートを見た。客席の男女比は女性の方が多い。彼女は曲に合わせて13変化の衣装替え。10代、20代の女性のファッションリーダーならではのファッショナブルなステージを展開しつつ、それでいて芸能界的な派手さやカリスマ的な空気もない。友達感覚のようなコンサートは巨大な学園祭という雰囲気だった。アルバムの中には「Hey Girls 声をあげて」と歌う曲「Girls」もある。女の子の代表、という意識はあるのだろうかという質問に「一員ですけど、代表だなんて全然思ってません。みんなと同じ生活の中で感じることを書いているだけです」と言った。

   彼女のキャリアの中で特筆されなければいけないのが2015年の「トリセツ」だろう。電気製品の使用マニュアルを男性に置き換えた歌詞は彼女が周囲の人たちに取材してまとめたものだった。さだまさしの「関白宣言」の平成女性版として話題になったことは記憶に新しい。デビュー曲の「I」で初めて作詞をしたというキャリアは、10代の時からノートに詞を書きためていたという例も珍しくない多くの女性シンガーソングライターとは一味違う。デビュー当時の友情ソングは、自分の学生生活があって生まれた。新作アルバム「LOVE it」には初のウェディングソング「Dear Bride」もある。

「ウェディングソングを書くようになるとは思ってなかったんですけど、私も28だし、学生時代の友達が結婚していくんで、この曲を書くなら今だと思いました」

ネタ帳も書き溜めもありません

   ソングライター・西野カナに対しての見方が変わったのは、2012年のシングル「SAKURA,I love you?」の時だ。彼氏と一緒に桜を見ている彼女が、隣にいる「彼」とは違う別れた「君」を思っているという異色の桜ソングは、それまでの友情ソングとは違う女心の複雑な裏表を描いていた。これまでのアルバムの中の曲にもシングルになっている曲のような女子への「エール」や「友情讃歌」とは違う女性特有の辛辣さが見え隠れする曲も少なくない。新作アルバム「LOVE it」で言えば「Liar」という曲がある。嘘つき、である。

   「女の子にはどっかに隠し持った毒みたいなものもあると思って、この歌は、浮気をしてるんだけど、うまく騙せているんじゃないかと思っている男性への挑戦状ですね(笑)」。

   彼女にはもう一つの「形容詞」がある。それは何かにつけて語られる「平成生まれ初」というものだ。2010年に2枚目のアルバム「to LOVE」がアルバムチャート1位になった時は「平成生まれ女性ソロアーティスト初の1位」。去年、「あなたの好きなところ」がレコード大賞を受賞した時も今年のドームツアーも「平成生まれ女性ソロアーティスト初」だった。

「ネタ帳もないし、書き溜めもありません。貯金ゼロ(笑)。次、どうしようと思うことはたくさんありますけど、10年そうやってきたんで何とかなるかなと。一年一年考え方も経験も変わってきますからまた何か発見して書いていきます」

   自分の成長が歌になる。成長した自分が感じた人間関係が作品に反映されてゆく。等身大というのはそういうことなのだと思う。

   一つの世代にはその世代特有の文化がある。

   もうすぐ新しい元号が始まる。

   彼女は、文字通り平成世代の申し子ということになりそうだ。

(タケ)

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