TENGAが「学校教材」「不妊治療」に参入 2020年までに「事業の柱に」

   「TENGAグループを支える第2の柱に育てたい」――こう力強く話すのは、TENGAヘルスケア代表取締役の鈴木雅則氏だ。

   同社は、TENGAの社内ベンチャーとして2016年11月に設立。「性の悩みや問題のない社会へ」をビジョンに事業を展開する。

   アダルト分野のイメージが強いTENGAだが、なぜ新たな挑戦に踏み切ったのか。設立の背景を取材した。


鈴木雅則氏
鈴木雅則氏
Read more...

別会社設立で「本気度」をアピール

   TENGAはもともと、事業の中心である成人用玩具の開発や販売とともに、障害者支援や医療支援をCSR(企業の社会的責任)活動の一環として行ってきた。

「TENGA社は『性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく』というコンセプトを据えていて、この『誰もが』という部分を大切にしています」(鈴木氏)

   具体的には、2005年ごろから手が不自由な人でもTENGAを楽しめる「カフ(自助具)」の開発や、射精障害の研究支援を行ってきた。16年春には「医療部」を新設し、本腰を入れ始める。

   そこで同年11月、性的に健康な状態を指す「セクシャルウェルネス」の向上を目指し、TENGAヘルスケアが誕生した。


TENGAヘルスケアのミッション

   事業分野は「医療」「福祉」「教育」の3つ。社員は現在も数名と少数ではあるが、外部の医療機関やNPOと連携しながら研究や開発にいそしむ。

   なぜ社内の一事業部をわざわざ切り離したのか。その理由について、鈴木氏は

「TENGAはアダルトグッズの会社というイメージが強く、ドクターなどと連携する際に障壁となってしまう面がありまして......。別会社を立ち上げることで社内外へ『TENGAはヘルスケアに注力するんだ』ということを強くアピールできればと考えました」

男性の14.9%が「不適切なマスターベーション」

   第一号商品として世に送り出されたのが、性行為中に射精できない腟内射精障害(重度の遅漏)の改善に寄与する「メンズトレーニングカップ」(税込参考価格1080円、以下同)だ。獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友医師との共同で開発された。


メンズトレーニングカップ

   「自分には関係ない」――と思うあなた、本当に大丈夫だろうか。TENGAヘルスケアの調査によると、腟内射精障害の潜在患者数は約270万2000人もおり、その原因の7割は「不適切なマスターベーション」といわれている。

   「不適切」とはどんな方法を指すのか。TENGAヘルスケアは「脚をピンとさせた状態で行う」「床などにこすりつける」などとしているが、同社が男性2000人を対象にマスターベーションの方法を聞いたところ、

・脚をピンとさせた状態で:8.6%
・床などにこすりつける:6.3%

という結果に。少なくとも1割強が「不適切」に当てはまる数字だ。


マスターベーションの方法

   「メンズトレーニングカップ」は、刺激の違う5種のCUPを強い刺激から弱い刺激へと段階的に使用することで、健全な状態へ導く。腟内射精障害患者にも有効とのことだ。

「腟内射精障害の治療は、これまで薬物治療と専門家のカウンセリングの2択しか選択肢がありませんでした。そこで、新たな手段としてトレーニングカップを提案させていただきました」(鈴木氏)

不妊症の原因、男性ではないですか?

   さらには、スマートフォンのカメラで精子を観察できるキット「TENGA MEN'S LOUPE(テンガメンズルーペ)」(1620円)も手がける。


TENGA MEN'S LOUPE
「不妊症の原因は女性側にあると認識されている方は少なくないと思いますが、実は男性の『精子』が原因の場合もあるんです」(鈴木氏)

   世界保健機関(WHO)の調査(1997年)によると、不妊症の48%は男性に原因があるという。だが、「男性不妊」の認知度は低く、不妊治療に取り組むのは女性が多い。

   日本産科婦人科学会によると、男性不妊の原因は精子の数や運動が不十分な「造精機能障害」が80%を占めるものの、自覚症状がなく自力で気づくことはまずないという。そのため、病院で検査を受けようというほど危機感が持てないのかもしれない。

   「テンガメンズルーペ」は、まずは自宅で手軽に精子をチェックできるようにと開発された。使い方は、最初にスマホのフロントカメラにルーペをセット。次に採取用カップにためた精液をスポイトでプレートに1滴たらし、ルーペに乗せたら準備完了だ。ビデオモードでカメラを起動すると、精子が運動する様子を見られる。

アダルトビデオが「教科書」になってしまう危険

   そのほか、教育現場への進出ももくろむ。鈴木氏は、学校での「性教育」の欠点をこう指摘する。

「保健体育の教科書で『性』を扱ってはいるのですが、抽象的な表現が多く、肝心な部分が伝わりづらいと感じています」

   多くの中学校で採用されている保健体育の教科書(大修館書店)の授業案を見てみると、前述したマスターベーションに関しては記述が無く、「男子生殖器の各部の名称」や「射精のしくみ」についての解説などにとどめている。

「そのため、アダルトビデオが『教科書』になってしまい、間違ったマスターベーションやセックスを『普通』だと勘違いする人も少なくありません」

保健体育授業展開指導ノート(17年~21年度用教科書)
「加えて、教える側の先生が(性教育の)プロフェッショナルではないため、適切に指導できないケースがあると思われます。そのような背景もあり、性について話すことに抵抗感があるように考えられます」

   学校側も課題に感じているようで、最近では医師に出張授業を頼むケースも増えている。TENGAヘルスケアはここに目をつけた。出張授業で活用できる教育ツールの製作を、医師と共同で進めている。

   最後に、今後の"野望"を鈴木氏に聞いた。

「正直、まだまだ先行投資の段階で収益的には厳しい部分はございますが、今後はTENGAグループの事業の柱として、2020年までには売上10億円を目指してまいります」

注目情報

PR
追悼