留学経験者の大規模調査で見えたこと 異文化対応力ある人材が日本の成長支える

   かつて海外留学は、日本の学生にとってあこがれだった。語学力を身に着け、国境を超えた友情を育んで国際感覚を磨くことで将来の進路に生かそうと、多くの若者が海を渡っていった。ところがOECD(経済協力開発機構)などの調査によると、日本人の1年以上の長期留学生数は2004年をピークに減少を続けている。

   「海外留学がキャリアと人生に与えるインパクト~大規模調査による留学の効果測定~」(学文社)は、留学がキャリアと人生に与えるインパクトを、長期的な観点から回顧的に評価してもらった大規模質問票調査の報告となっている。

「海外留学がキャリアと人生に与えるインパクト」
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海外経験が職業や給与にポジティブな影響

   2018年4月5日に刊行された同書は、大きく2部構成となっている。第1部では、今回の大規模な回顧的質問票調査の背景となる海外留学支援政策等の情報を整理して提供し、第2部で調査結果をまとめて分析している。

   調査では、有効回答数が4489件に上った。同書では留学をしなかった対照群(有効回答1298件)との比較も交えて、各種の検証を行っている。そこから導き出されたのは、留学経験者は「大学の授業における積極的な参加」「学外での課外活動や寮での交流」「語学力の向上」ほかすべての領域で、非留学経験者より圧倒的に肯定的な回答をした点だ。また海外留学経験が現在の職業での職位や給与にもポジティブな影響を与えていた。半面、自分の留学経験が雇用者に十分に評価されていないと考えている人も多かった。

   ただ前述のとおり、OECDの調査では2004年時点で日本人の1年以上の長期留学生は8万2945人に上ったが、直近の統計となる2015年は5万4676人にまで落ち込んだ。特に留学先としての「米国離れ」は顕著で、ピーク時の1997~98年には4万7073人に達したが、2016~17年には1万8780人と60.1%も減少している。

「就職活動の早期化で、多くの学生は留学に抵抗感」

   同書の編著者のひとり、一橋大学国際教育センターの太田浩教授はJ-CASTトレンドの取材に対し、「政府の政策的支援(奨学金)で、短期留学者数が増え、海外留学の裾野は広がっている」と説明する一方で、キャリア上の成功、語学力を含む異文化コミュニケーションや異文化理解、また専門的で高度な知識やスキルを伸ばすうえでは学位取得を目指す長期留学が必要だと強調した。異文化への対応能力と専門的知識を持った日本人が、アジアをはじめ海外の新興市場に出て活躍し、その成長性を取り込めるかが日本の成長やグローバル化適応のかぎを握るというわけだ。

   しかし、「日本の大学特有の就職活動の早期化で、多くの学生は留学に抵抗感を持っている」と指摘。「現行の新卒一括採用方式の見直しなど、留学を経験した学生を社会で有効活用していく取り組み」の必要性を訴えた。

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