TUBE、30回目の「ハマスタ」ライブ
どれも夏。全編が「夏と海」

   「あの夏の思い出たち・5」

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   こうして夏のライブの話を書きながら、触れなければと思いつつそのままになっていたライブがある。

   夏と言えばこの人たち、この人たちと言えばこのライブという恒例のイベント。同じ場所で続いている単独のスタジアムコンサートという意味では日本で最長。世界でも例がないのではないだろうか。先日、2018年8月25日、30回目が行われたTUBEの横浜スタジアム(ハマスタ)公演である。

   何せ30回である。

   それがどういうことなのかは、いくつもの場面が物語っていた。

30回目を迎えたTUBEの横浜スタジアムでのライブ(ソニー・ミュージックレーベルズ提供、以下同)
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解放感いっぱいの大合唱

   例えば客席だ。

   まだ西日が残るスタンドはもとよりグランドのアリーナからステージの左右にまでびっしりと埋め尽くされた客席の年齢層が広い。

   もう何度も来ているという大人のカップル、すでにアルコールも入って出来上がっている熟年層のグループ。三世代にわたっていそうな家族連れと年齢も性別もまちまち。土曜日だけにスーツにネクタイ姿こそいないものの、Tシャツ、ポロシャツにアロハ。サラリーマンの夏休みを絵に描いたような男性、浴衣やチャイナドレスの女性までいる。

   どの表情にもこの日をまた迎えられたという安心感が宿っている。アイドルコンサートのような黄色い歓声もむせ返るような熱気もない代わりに解放感いっぱいの大合唱が夜空に響き渡っていた。

   例えば演出である。

   二階建てのようなステージの上の方から颯爽と登場したメンバーの中にいなかった前田亘輝が遅れてアイスキャンディー屋に扮して袖から現れるというユーモラスなオープニング。バンド付のダンサーと数十名のダンサーが浴衣や水着姿から男装まで曲に合わせて姿を変えてゆく艶っぽい色どり。容赦なく降り注ぐ水とこれでもかと噴き上げる生火。前田亘輝と春畑道哉それぞれを乗せて客席の頭上を動き回るクレーン。アンコールにスクーターで登場した前田亘輝を乗せたまま怪獣やロケットの噴射のように周囲に生火を噴きだしながら宙づりになるゴンドラ。惜しみなく打ち上げられる花火。轟音とともに爆発する水の入ったドラム缶。どれもこれまでに何度も経験しているのだろう、思うように行かなかったこともあったに違いない。客席の盛り上がり心理を読み切ったような大胆で心憎いまでの流れは、野外ライブならではのお祭り感溢れる盛大なものだった。そう、フェスティバルではなくお祭りだった。

完璧に夏に特化した選曲

   そして、何よりも曲がある――。

   一曲目の「夏だね」から予定外のアンコール曲「ゆずれない夏」まで28曲。どれも夏だ。全編が夏と海。これだけ完璧に夏に特化した選曲は彼らにしか出来ないだろう。

   それでいて歌われている夏は客席の年齢層そのままにいくつもの表情を見せていた。

   夏休みを迎える前のときめきを歌った「夏だね」や「Let's go to the sea」の誰もが思い当たる夏の恋の期待、そして水平線そのもののようにのびやかな「Beach Time」。「一回目のオープニングの曲、覚えてる?俺は忘れてたけど」という前振りでの「夕方チャンス到来」、そして、85年のデビュー曲「シーズン・イン・ザ・サン」。あいさつ代わりのような初期の曲は2008年の「オラシオン~君に恋した夏~」から去年の「My sunny day」と続いてゆく。

   33年のキャリアを遡るようであり、その中で少しずつ変わってゆく「夏と海」の物語。センターステージに移ってからは、更にそんな曲が用意されていた。

   TUBEの中での「夏と海」が変わってきたと印象深かったのは2009年のアルバム「Blue Splash」だった。大人になってから思う「夏と海」。シングルになった「SUMMER GREETING」は、普段は会う事もなくなってしまった友人から届いたカードが題材だった。海の写真に添えた「元気かい」という一言が思い起こさせる遠い波の音や潮の匂いと青春の日々。TUBE自身がそういう年齢に差し掛かり、彼らが作り出す音楽がそういう役割を果たすようになったように思えた。

   前田亘輝、春畑道哉、角野秀行、松本玲二がセンターステージに並んでいる。エレキの代わりにアコースティックギター、ドラムの代わりにアメリカのジャグバンドが使うウォッシュボード。「SUMMER GREETING」に始まり、「その辺、酒臭いぞ」と最前列の客席を冷やかしながら歌われるバラードコーナー。仕事も始め、都会暮らしに慣れてしまった。あの日々は戻らないと知ってしまったからこそ分かる夏の愛おしさ。今年の新曲「潮風の中で」や2015年の「海のバラード」。心の中を海風が吹き抜けてゆくようなメロディーは若い頃には書けなかっただろう。

   そんなしみじみしたコーナーの締めくくりが、自分たちの音楽を季節を越えて人生を照らす光に託した「灯台」だった。

本物の加山雄三が登場

   TUBEの横浜スタジアムの一回目は1988年。昭和最後の夏だ。今年は平成最後の夏。ヴォーカルの前田亘輝は「みんなが平成最後とか30回目とかいろいろ言うんで今までで一番緊張している」と言った。

   平成生まれの新しい波。今年が発足25周年というサッカーのJ・リーグもその一つだろう。93年のオープニングセレモニーのために春畑道哉が書き下ろしたのが「J'S THEME(Jのテーマ)」。8月22日にその25年バージョンが発売になった。客席の応援の歓声が織り込まれた劇的な構成は、この日も観客の一体感を増していた。

   画面にはJ・リーグの名選手の名シーンが映し出され、ステージにフラッグが登場する。音楽とスポーツ。ともに生の迫力に勝るものはない。

   前田亘輝が「いつもより緊張している」と言ったのは、これもあったのではないかと思わせたのが、予想もしていなかったゲストの登場だった。

   普段日の当たらない楽器であるベースに注目してもらおうと、海辺の4人が全員ベースで加山雄三の「海、その愛」を演奏するという微笑ましい映像が流れた後に、何と本人の加山雄三が登場した。元祖・海の男。湘南の巨人も加わった「海、その愛」の3万人の大合唱には昭和も平成もなかった。加山雄三が14歳の時に初めて作った曲という「夜空の星」をメンバー全員が加山雄三のおなじみのギター・モズライトを使って弾く。全員ベースと全員ギター。デビュー33年。気心が知れたバンドの証しのようなシーンだった。

   夏の始まりと終わりに思う事――。

   若い頃は、今年はどんな恋に出会えるだろう、だったりする。どんな異性と言ってもいい。思うような出会いがある年も何もなく終わってしまう年もある。来年こそと思いつつ秋を迎える。

   時が経ち、生活も変わり、夏の過ごし方も変わってくる。自分のことだけではなく家族との思い出が大事になることもある。

   そして、あの頃、一緒に遊んだ友人や知人の訃報を聞くようにもなる。それでも、あの夏の日の思い出に帰って行く。

   本編最後もアンコールもそんな「恋する夏」の歌だ。スタジアム上空を覆ったジェット風船はそれぞれのささやかな打ち上げ花火のように心の中に残って行くだろう。

   前田亘輝が「やっぱりこの曲がないと」と「あー夏休み」を歌ったのは二度目のアンコールでだった。

   葦簀張りの海の家、浴衣に花火、蚊帳と鈴虫、どれも切ないほど「日本の夏」だ。台風と猛暑に明け暮れた平成最後の夏をそんな風に牧歌的に過ごせた人がどのくらいいるだろうか。「日本の夏」はTUBEの歌の中で生き続ける。

   春畑道哉は事前のインタビューで「30回もやるなんて思ってもいなかった。毎年、今年だけなのかなと思ってやってきた気がする」と言った。

   去年は雷雨に見舞われ、1時間あまり中断せざるを得なくなった。彼は「みんな帰ってしまったかなと思ったら待っていてくれて、本当にうれしかった」と言った。それは普段は21時以降に音を出せないという球場の理解があってこそだ。

   平成最後の8月が終わる。

   来年は新しい年号のもとで行われることになるのだろう。夏の野外ライブが出来なくなる日が来ることのないように祈るばかりだ。

(タケ)

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