スターダストレビュー「年中模索」
「今までと同じようなアルバムを作ってどうする」

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   売れるために必要な条件は何でしょう。

   そんな質問に対して多くの答えは二つだと思う。「運と才能」である。どんなに才能があってもそれが世に出るタイミングが必要になる。時代によって求められる才能も変わってくるからだ。そして、どんなに「運」が良くても「才能」がなければ始まらない。

   今年がデビュー40年目。新作アルバム「年中模索」を発売したばかりのスターダストレビューの根本要は、こう言った。

   「僕らの「運」は「売れなかったこと」だと思う」

「年中模索」(日本コロムビア、amazonサイトより)
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「ビックリするような冒険したものを作ろう」

   スターダストレビューは、根本要(V・G)、柿沼清史(B・CH)、寺田正美(D・CH)、林"VOH"紀勝(PER・CH)という四人組。1981年、アルバム「スターダストレビュー」、シングル「シュガーはお年頃」でデビューした。

   どんな聞き手でも楽しませ、自分たちもそのことを心底楽しんでいる根っからのエンターテイナーぶりが溢れるステージは年間80本以上。史上屈指のライブバンドでもある。「木蓮の涙」や「夢伝説」などスタンダードになったラブソングも多い。

   とは言え、シングルチャートの一位やミリオンセラーになったアルバムなどのビッグヒットや時代を象徴するような飛びぬけた曲に恵まれたわけでもない。

   新作アルバムは一昨年に出た前作「還暦少年」以来二年ぶりだ。初めての漢字4文字のタイトルもさることながら、それまでの彼らにはなかった「作風」を感じたアルバムだった。「年中模索」は、そんな変化を更に強く感じる作品になった。

   それまでと何が違ったのか。

   それは、スタレビというバンドの持っている本質的な面がありのままに表現されていたことだった。

   J-POPというのは、アメリカやイギリスの音楽に影響されて生まれた日本語のポップミュージックだと思っている。ロックやブルース、あるいはサンバやジャズ。本国ではそれぞれが固有のものとして分かれるジャンルが同じように取り込まれている。根本要の言葉を借りれば「フェイク」、つまり「偽物」「借り物」である。

   どうやっても本物にはなれないことを承知しつつ「でもやってみたい」という「本気の遊び心」。元々定評のあったバンドの演奏力が発揮される「偽物」ならではの面白さだ。

   なにしろ「年中模索」の一曲目の「働きたい男のバラッド」は、ヘビメタのバンドが頭を上下に激しく動かす"ヘドバン"を思い浮かべるハードロックだ。

   作詞も作曲も手掛ける根本要は、筆者が担当するインタビュー番組、FM NACK5「J-POP TALKIN'」で「あの曲で始めるのは反対された」と言った。

   「みんなが推していたのは『センタクの人生』だったの。聞きやすし乗りやすい。でも、僕は、なぜ40周年でベスト盤にしないのか、何で今更聞きやすいアルバムにするんだ、今までと同じようなアルバムを作ってどうする。みんながビックリするような冒険したものを作ろうと、とうとうと言ったんです(笑)」

   5曲目の「センタクの人生」は、踊りだしたくなるようなサンバ調。でも、ダイナミックな肉体感が溢れる「本物」とは違う「スタレビ風」だ。「センタク」という言葉にも「選択」と「洗濯」を掛詞にした彼ららしいユーモアが込められている。そうした「スタレビ調」には収まらない始まりが「年中模索」を象徴している。アルバムの中には、70年代の洋楽のソウルミュージックやはっぴいえんどやシュガーベイブなど日本語のパイオニア的バンドなどへのオマージュがさりげなく盛り込まれている。それは自分たちの好きな音楽を改めて楽しんでいるようだ。

   ただ、そうした作り方は「還暦少年」の特徴の一つでもあった。前作との何よりの違いは、アルバムを通しての「メッセージ」にある。

全てを任せて信頼出来るパートナー

   スターダストレビューを以前から聞いている人には「メッセージ」という言葉に居心地の悪さを感じたりするかもしれない。

   根本要もこう言った。

   「僕らの音楽にメッセージは必要ない、楽しく音楽を聴いてほしい。ラブソングを歌うことが使命感だと思ってましたからね。それが僕らの弱点でもあった。ただ、言いたいことはたくさんある。それを込めようと思ったんですね」。

   大人になるということは社会性に目覚めてゆくことでもある。アルバムの中核の「大人の背中」と「約束の地へ」はまさにそんな二曲だ。今、自分たちを取り巻いている「大人」たちへの幻滅。子供の頃に「地球は青かった」と言った最初の宇宙飛行士ガガーリンの言葉に描いた地球の希望的な未来と21世紀の現実の落差。「思ったことを歌えばメッセージになる」。それは「作家的開眼」と言えないだろうか。J-POPの基礎を作った作詞家、永六輔を思わせる平易で日常的な「同級生」は、「一番の理解者で仲の良かった高校の同級生がなくなった」ことがきっかけだった。そこにも同世代に向けた「メッセージ」が綴られている。

   なぜ、そんな風に自然体で「メッセージ」が歌えるようになったのか。「還暦少年」でもタッグを組んだプロデューサー、ギタリストの佐橋佳幸の存在を抜きにしては語れない。山下達郎のステージメンバーとしても知られている。

   「どうだ、と佐橋を唸らせたくて、凝って作った曲が却下される。余計なことを考えずに思いのままに作ってあいつに任せておけばいいと思ったら、バカバカ出来る(笑)。ここ数年曲を作るのがこんなに楽しいと思えたことがない。新境地に入ったみたいですね」

   もし、どこかで爆発的に売れていたら、今になって何物にも縛られずこんなに自由に音楽を作れてないのではないだろうか。それが「売れなかったことが僕らの『運』」という言葉につながっている。

   でも、「売れるための条件」には、もう一つの要素が必要と言っていいかもしれない。

   それは「全てを任せて信頼出来るパートナー」の存在だろう。そのことで「売れる」ということよりも大切な「自由」を手にすることが出来る。デビュー40周年の新作「年中模索」は、その証明のようなアルバムになった。

   

   彼らが、今、改めて「模索」していること。ライブ・バンドとしてこのライブ受難の時代をどう生き抜くかという大命題。10月からは過去最大級の40周年ツアーが予定されている。

(タケ)

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