中国には100万人都市が300もある

■『中国都市ランキング2018』(編著・周牧之+陳亜軍 NTT出版)


   周牧之さんは、1962年に中国湖南省に生まれ、北京政府の通産省に当たる官僚となり、日本に渡って30年余。東京経済大学の教鞭をとりながら、日本と中国の関係改善、中国の都市政策に多大な貢献をしてきた。本書の中心となる中国都市総合発展指標は、周さんの長年の研究成果をもとに構築された。

   都市と農村の格差など「三農問題」を抱えていた中国は、農村の発展を旨とし、都市部への人口移動を規制してきたが、今では100万人規模の都市は300を超える。その転機は2001年。WTO(世界貿易機関)加盟により中国沿岸部が一気に世界の工場となり、臨海部の主要都市が大規模化した。

   都市住民の生活の質と環境問題の回避という二つの目標を追いながら、急速に成長する都市圏は、人口1000万人のメガシティと周辺都市が複合するメガロポリスへと変貌を遂げた。本書は16年に初版が出版されてから三回目の出版だ。都市データの更新に加え、メガロポリス発展戦略、中心都市発展戦略、大都市圏発展戦略と特集が毎年変わり、2030年に向けて中国の都市部がどのように変化していくかを知る手がかりに溢れている。また、トップ10都市の強みが写真付きで紹介されており、特に、杭州市、成都市、南京市は自然、歴史や文化の魅力を一度訪れて実感してみたい。

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三大メガロポリスの課題

   欧州はその歴史から都市人口は100万人規模で、1000万人規模のメガシティはモスクワやロンドンにとどまるが、アジアの都市は臨海部の都市が製造業と交易で発展したために規模が大きい。世界最大の都市圏は東京圏の3400万人だが、中国には京津冀(けいしんき)、長江デルタ、珠江デルタの三つのメガロポリスがあり、いずれも2000万人以上の規模。複数の大都市圏が連携する連続的な構造だ。三つのメガロポリスは、世界との交易で成長し、国内の他地域から6000万人もの人口流入があった。そのメガロポリスには、都市機能の充実に関して二つの課題がある。

   一つは、都市住民の生活の質という視点。公共交通網、レストラン、大学など人口が集中して快適な空間構造をどう作るかだ。人口規模が大きい分、 欧州や米国にはない、東京圏のようなコンパクトで快適なメガシティを目指すことになる。二点目は、周辺の中小都市の核となる中心機能を充実させることだ。とりわけ、国際交流に必要なIT、国際会議、宿泊といった機能が重要だ。製造産業の発展拡大した沿岸部のメガロポリスが、今度は、IT産業と国際交流にふさわしい都市へと姿を変えていくのである。

人間本位のマネジメント

   中国の都市は、人口戸籍制限を緩和して若者を積極的に引き寄せる競争に向かっているという。日本の地方創生とは逆の構図だ。若者からすれば、都市の生産活動と生活環境の双方を見てどの都市に住むかを決めることになる。大都市だからといって生活環境が悪ければ良質の転入者を得ることは難しくなる。利便性を犠牲にせず、緑が生い茂り穏やかな住宅地帯をどう形成するか。人間重視の都市化への転換が急速に進むであろう。製造活動にふさわしい都市から知的な価値を創造する活動にふさわしい都市への変質である。

   こうした考えが、中国国家発展改革委員会の官僚の言葉で語られていることが、本書が日本語化された意義の最たるものではないだろうか。中国の官僚が、経済、社会、環境の三つの均衡を重視する方針を掲げ、それを測定する数値指標として「中国都市総合発展指標」の理念と実益を高く評価することは、都市問題の奥深さゆえに、数値をベンチマークとして都市を経営する意義を北京と省の幹部がともに実感しているからであろう。この発展指標が、周さんの知的な献身活動を基礎として、中国の官僚と日本の産学官との協力で生まれたことは、日中の現代史に残る出来事ではないか。

<ドラえもんの妻>

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