「墨アート」の篠田桃紅さん、早くも「回顧展」 「107歳まで現役」のエネルギーを知る

   2021年3月1日に107歳で亡くなった「墨アート」の芸術家、篠田桃紅さんの展覧会「とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」が4月3日から横浜市・そごう美術館(そごう横浜店 6階)で開かれる。展覧会は生前に準備されており、篠田さんも楽しみにしていたという。期せずして「回顧展」となった。

『一◯五歳、死ねないのも困るのよ』(幻冬舎文庫)
Read more...

80点の作品と資料

   特異な書道家、現代アーティストとして国際的に活躍した篠田さん。本展では、日本の古典文学と書法を学んだ初期の作品から、文字を離れて墨の色や線を追求し、独自の抽象表現を確立したニューヨークでの挑戦、そして余分なものを極限まで削ぎ落として新たな形に昇華、一瞬の「心のかたち」を追求し続けた近年までの変遷を、約80点の作品と資料を通してたどる。

   そごう美術館は告知文に、以下のように記している。

「2021年3月1日、本展の開催を楽しみにしておられました篠田桃紅先生が、107歳で旅立たれました。謹んで哀悼の意を表します」
「篠田桃紅は、文字の形にとらわれない水墨抽象画という独自のスタイルを確立し、常に新しい表現に挑戦し続けてきました。自然や時代の変化の中に漂いうつろう『とどめ得ぬもの』に寄り添い、そこに見出した一筋の『墨いろ』の線は、無限の広がりを感じさせるリズムを奏でます」
「幼少より墨に親しみ、独自の表現世界を追求、文字から抽象へとその表現を推し進め、墨の新しい可能性を発見する営みを休むことなく続け、その孤高の仕事は最後まで衰えることはありませんでした。墨と寄り添い生きた篠田桃紅の表現の変遷をぜひご覧ください」

「世界が尊敬する日本人100人」

   篠田さんは、1913年中国・大連生まれ。5歳の頃から父に書の手ほどきを受けて墨と筆に触れ、以後、おおむね独学で書を極めた。56年単身渡米、ニューヨークを拠点に、ボストン、シカゴ、パリなどで個展を開催。66年来日したザ・ビートルズは宿泊ホテルに飾られていた桃紅作品に感銘を受け、同じ筆を買い求めたという逸話がある。

   デザイナーの森英恵さんなどと同じように、戦後の早い時期に国際的に力量が認められ、名声を得た数少ない日本人女性の1人だ。2005年、ニューズウィーク(日本版)の「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。作品は国内外に多数収蔵されている。

晩年もベストセラーを出版

   展覧会は4章構成。「第1章 文字を超えて(渡米以前) ~1955年」、「第2章 渡米─新しいかたち 1956-60年代」、「第3章 昇華する抽象 1970-80年代」、「第4章 永劫と響き合う一瞬のかたち 1990年代以降」となっている。独創性を確立しながらも、さらに新たな造形を模索し続けた篠田さんの作家生活が一望できる内容となっている。

   篠田さんは、随筆家としても著名。以下のような言葉を残している。

一瞬にして去る風の影、
散る花、木の葉、人の生、
この世の「とどめ得ないもの」への、
私流の惜しみかた、それが私の作です

   晩年も多数の著書があり、『一〇三歳になってわかったこと』(幻冬舎)は50万部超のベストセラーになった。J-CASTでは『一◯五歳、死ねないのも困るのよ』(幻冬舎文庫)を紹介済みだ。

   展覧会は5月9日まで。入場料は大人1200円。

注目情報

PR
追悼