SKYTOPIAと「Frasco」タカノシンヤ サラリーマンしながらガチで音楽活動

   サウンドプロデューサー・SKYTOPIAさんと、音楽ユニット「Frasco」による全13曲入りのフルアルバム「UNNATURAL」が2021年11月10日に配信された。音楽プロデューサー・蔦谷好位置さん、音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のメンバー・ケンモチヒデフミさんら、著名な業界人がリリースにコメントを寄せている。

   SKYTOPIAさんと、「Frasco」のコンポーザー・タカノシンヤさんは、昼は民間企業で働く「兼業アーティスト(副業ミュージシャン)」。さらに元銀行員(SKYTOPIAさん)、元理科教師(タカノさん)という、カタいイメージの職種に就いていた過去がある。異色の経歴を持つ二人が勧めるのは、「やりたいことを仕事にする」のではなく、「仕事とやりたいことを混ぜ合わせる」ワークスタイルだ。

(左から)SKYTOPIAさん、「Frasco」タカノシンヤさん
エレクトロミュージック(電子音楽)の可能性を追求して生み出した、不自然派ポップス「UNNATURAL」
(上段左から)「Frasco」タカノシンヤさん、峰らるさん、(下段中央)SKYTOPIAさん
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もはやどちらが「副業」かわからない

   日中は一サラリーマンとして勤務する2人。SKYTOPIAさんは大手外資系IT企業、タカノさんは面白法人カヤックの正社員だ。

SKYTOPIAさん「平日はきちんと所属企業の仕事をして、夜や休日に音楽活動しています。たまに、平日の休憩時間を副業に当てることもありますね」
タカノさん「仕事と副業の境目が、正直ないよね。両方楽しく、本気で取り組んでいます。普段は企画やコピーライティングを手掛けていて、言葉を扱う仕事を通じて得た刺激が歌詞を考える際に役立っていると感じています。もはやどちらが『副業』かわからないです(笑)」

   共通する考えは、(1)ビジネスで培ったスキルやノウハウ、気付きを音楽に生かす、(2)音楽活動では自分自身を表現・解放するとともに、人脈を広げ、それをビジネスに還元する、というものだ。どちらが欠けても成り立たない。おかげで「これまで、スランプになったことがないんですよ」とSKYTOPIAさん。

「銀行員時代から、ずっとそうです。仕事では数字、副業では歌という、まったく異なる対象を追いかけ続けていました。それぞれで使う頭が違うので、行き詰まりにくい。どちらかに向き合うたび、いつも『新鮮で、美しい』と感じられるんです」

仕事で行き詰まったら音楽に、音楽がうまく作れなくなったら仕事に集中するというSKYTOPIAさん

   タカノさんはFrascoとしての活動がきっかけで、カヤック社に採用された実績がある。つまり、会社公認の副業だ。「仕事で知り合った相手に、自分の趣味や副業をオープンにすると、どちらも上手く回り出すことがある」という。


タカノさんは新卒から6年間、教師として働いていた
SKYTOPIAさん「日本は、『プロじゃないと、肩書きを名乗ってはいけない』という考えが強いですよね。例えば、自分が生まれ育ったイギリスでは、プロでなくともギターが好きな人を『He is a guitarist.』と紹介します。何かをやっていること自体が、その人の定義になるんです」
タカノさん「固定概念に囚われず、楽しんだ者勝ちということだね。とにかく打席に立たないことには、チャンスは巡ってこないから」

サラリーマンが音楽を作るとこうなる

   二人のビジネスマインドは「UNNATURAL」の制作においても度々発揮された。やりとりは原則チャットツール「Slack」で行い、表計算ソフト「Googleスプレッドシート」も活用していたという。

SKYTOPIAさん「自分たちだけでなく、Frascoメンバーの峰らるさんと、エンジニアであるサポートメンバーのナギー(kentaro nagata)...計4人で作ったアルバムなんですが、常に誰かしらがプロジェクトを前進させていましたね。止まることがなかった」
タカノさん「活動時間がバラバラなのが、かえってよかったよね。夜の内に上げられたデータを、昼に別の誰かがチェックして戻す、なんて体制でした。全員プロジェクトマネジメント力があるので、各々が全体の進行度を意識しながら、個々の役割を果たしていましたね、」

   デザイン担当の峰さんからは「A案~C案、3つあります」といった、いかにも「クライアントへ提案するような形式」でデータが送られてくることもあったそうだ。


制作メンバーがビジネスツールに慣れていたのが大きいという

   楽曲づくりは基本的に、タカノさんが作ったデモテープを元に、SKYTOPIAさんがリミックスするような流れで行った。「ほとんどファーストテイク」だそう。

タカノさん「僕が生んだ卵を、SKYTOPIAが料理するイメージですね。どんな卵料理にしてもらってもいい、信じてる!という気持ちで委ねた結果、積極的に意見は出し合いつつも、ほぼボツなく仕上がりました。あまりにもどんどん曲ができちゃうので、途中から『シングルじゃなく、アルバム作るか』と思い立ったくらいです」
SKYTOPIAさん「とにかく『不自然さ(UNNATURAL)』に向き合い過ぎて、宇宙に繋がったときもありました(笑) 例えば、盆栽を見て『自然っていいよな』と感じた次の瞬間、『待てよ、これは人間のために作られた自然であって、つまり不自然なのでは?』と思ったり...」
タカノさん「よくよく考えてみると、世の中には不自然なことの方が多いよね」

制作の最中、音楽スタジオを一度借りたものの、結局二人でパソコンを並べていつも通り作業しただけだったそう

「カフェオレ理論」で仕事もやりたいこともwin-winに

   取材の最中、記者がふと感じたことがある。楽曲にまつわるどんな質問を投げかけても、二人は「何となく直感で」「どうしてそうしたかわからない」と曖昧な答え方をせず、しっかりと理論だった説明を返してくれるのだ。タカノさんは「これも仕事を通じて得られたスキルでしょうね」と語る。

「『やりたいことを仕事にする』って、ハードルが高いですよね。だからこそ、仕事とやりたいことを混ぜたらいいと思うんです。僕は『カフェオレ理論』と呼んでいます。仕事がコーヒー、やりたいことをミルクとすると、カフェオレを作るようなイメージです」(タカノさん)

   カフェオレは、コーヒーとミルクの割合が1:1。仕事(本業)と、やりたいこと(副業)とを上手くミックスし、win-winになるような働き方を目指すということだ。

   SKYTOPIAさんも「少しでも音楽に近づきたい」という思いを糧に、銀行員からキャリアチェンジ。ただ、初めから順風満帆だったわけではない。興味のあることを見つけたら、「失敗してもいいや!」と何度も積極的にチャレンジを繰り返し、やりたいことを少しずつ手繰り寄せてきた。

「現在所属している企業に契約社員として入社したときは、音楽とは関係のない部署でした。そこから社内公募システムなどを積極的に活用し、現在はアーティストと関われる仕事に就いています。イギリスでは挫折も味わいましたが、今が一番幸せだと胸を張って言えます」

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