沖縄「オミクロン株」でクラスター 米軍基地が「抜け穴」になる

   国内でもオミクロン株の感染が広がっている。中でも緊張が高まっているのが沖縄だ。背景には米軍基地の存在がある。日本政府は海外からの入国者に対し、空港などで厳しい水際作戦で対応しているが、米軍基地は「抜け穴」になっているからだ。

沖縄県の米軍基地キャンプ・ハンセン(写真:アフロ)
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入国規制が米軍には適用されない

   2021年12月25日の朝日新聞によると、沖縄の米海兵隊基地キャンプ・ハンセン(金武町など)ではオミクロン株に255人が感染、クラスターが起きている。

   同県内ではこれまで10人のオミクロン株感染が確認された。9人はハンセン、1人は米海兵隊キャンプ・シュワブ(名護市など)の基地と関わりがある人だった。

   日本の米軍基地の多くは沖縄にある。約9000人の日本人が米軍基地で働いている。昨年も、基地内で多数の感染者発生→基地内の日本人が感染→基地外に感染が広がる、ということがあった。各メディアはその理由を次のように説明している。

「日本政府が講じる入国規制は、海外から軍用機などで入ってくる米軍関係者に適用されないという『抜け穴』があり、水際対策の限界も浮き彫りになっている」(23日、東京新聞)
「日本政府は11月30日以降、外国人の新規入国停止など水際対策を強化しているが、多くの米軍人や軍属は例外だ。日米地位協定で旅券やビザに関する国内法の適用が除外されているため、米本国から基地に直接入国することが可能となり、日本の空港検疫の対象となっていない」(24日、朝日新聞)
「キャンプ・ハンセンではアメリカ出国時のPCR検査が9月3日以降、実施されておらず、待機期間中の基地内での行動制限も行われていなかった」(25日、TBS)

本土からは想像もできない状況

   ジャーナリストの青沼陽一郎さんは25日、東洋経済ONLINEで、沖縄の米軍基地や米軍関係者の実態をリアルに報告している。

「基地からは、マスクもせずにアメリカ兵が市中に出て、普通に買い物をして、酒をあおっている。日本のように感染対策が行き届いていない」

   米軍関係者が出入りする飲食店は、日本人の経営ではないそうだ。フィリピンやブラジル、メキシコ、ボリビアなどの南米から来て帰化したり、軍属が日本人の妻の名義で経営したりしているところが多く、感染症対策がずさんだという。以下のような地元の人の声を伝える。

「中尉だとか大尉だとか、階級のある人は基地にいない。基地外で庭のある1~2階建ての住宅に奥さんや家族と住んでいる。そこからキャンプ・ハンセンに車で通勤する。そこでマスクもしないで仕事をして家に帰る。庭があるから仲間を呼んでパーティーもする。休みの土曜日、日曜日には散歩もする。その家族が買い物にも出る。それがマスクをしていない」
「基地から出てくる兵隊も、基地外の住宅に暮らす家族も、マスクをしないで飲食店で持ち帰りの食品を買ったり、スーパーマーケットで買い物をしたりする」
「いったいどこの住宅に誰が住んでいるのか、自治体が把握していない。自治体が報告してくださいと求めても、しない。住民票もない。地位協定があるからだ。だから、事件があっても解決しないし、わからないことだってある」

   そして、こうした感染症対策にこそ、「地位協定」の見直しの議論があるべきだという地元の声を紹介し、「いずれにしても、本土からは想像もできない状況にある。日本の感染対策は無視されている」と沖縄の現実を報告する。

日本にいま何人の米軍人がいるのか

   報道の中で、しばしば登場する「日米地位協定」とはどういうものなのか。『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)によると、「アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め」だという。

   元・琉球新報の論説委員長で、編著者の前泊博盛さんによると、1952年のサンフランシスコ講和条約締結時に、日米安保条約と、「地位協定」の前身にあたる「日米行政協定」も発効した。講和条約や安保条約には書き込めない、最も属国的な条項を押し込むための「秘密の了解」が「日米行政協定」であり、日米関係を「属国・宗主国」とみなし、それを支える文書によるとり決めが現在の「日米地位協定」だと強調する。

   そもそも日本にいま何人の米軍人がいるのか。それすら日本政府は把握することができないのだという。なぜなら、地位協定によって、米軍人はパスポートやビザの適用から除外されている。同書によれば、軍用機で来日した後、フェンスの外に出るときに出入国検査がないそうだ。

   大宅ノンフィクション受賞者でジャーナリストの吉田敏浩さんの『「日米合同委員会」の研究』(創元社)によると、「日米地位協定」の具体的な運用は、「日米合同委員会」で行われる。

   多数の分科委員会や部会が常設で設けられている。出入国、通信、民間航空、民事裁判、刑事裁判、事故、財務、港湾などだ。それぞれの部門の米国側の代表者は、在日米大使館参事官を除いてすべて軍人。日本側の担当者は、外務、防衛はもちろん、法務、郵政、国交、農水など多数の省庁に分かれる。おおむね課長以上の高級官僚が出席している。

   会合は2週間ごとに開かれている。これまでに約1600回。場所は東京・南麻布の「ニューサンノー米軍センター」(通称ニュー山王ホテル)と外務省が交互らしい。

岸田首相も「抗議しろ」

   「運用」を協議する日米合同委員会では「密約」が成立しているそうだ。たとえば、「身柄引き渡し」に関する「密約」。「米軍人・軍属による犯罪が、公務執行中かどうか疑問なときは、被疑者の身柄を当該憲兵司令官に引き渡す」というもの。「米兵犯罪」の特別扱いについては、しばしば問題になる。

   吉田さんは「日米合同委員会の研究を通じて見えてくるのは、この国が真の主権国家、独立国家とはいえないという、悲しい現実です」と指摘する。

   今では、当たり前となっている地位協定だが、1950年代末の日米協議では、日本側から多数の「改定」の声が上がっていたことが近年情報開示された外交文書で明らかになっている。全国知事会も2018年8月、日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言しているそうだ。

   コロナと米軍基地、地位協定の問題点についてはすでに20年7月20日、東京新聞が社説で「米軍基地の感染 政府はもっと危機感を」と厳しく指摘していた。

   今回の米軍基地でのずさんな実態について、TBSは「岸田総理も怒り露わ 水際対策が及ばない...米軍のずさんなコロナ対応と特殊事情」というニュースを報じている。

   米国出国時のPCR検査が9月以降、実施されてこなかったことを知った岸田文雄首相は「厳しく抗議しろ」と珍しく怒りを露わにしたという。

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