羽生結弦とパンダで友好ツイート いつもはコワモテ中国外交官のSNS外交

   中国では「グレート・ファイアウォール」と呼ばれるシステムによって、グーグルやツイッター、ユーチューブ、インスタグラムなど欧米のサイトへのアクセスが遮断されている。だが、2020年前後から、中国の外交官が続々とツイッターアカウントを開設し、自国の主張を外国語で宣伝するようになった。

   有名外交官のアカウントは、100万以上のフォロワーを獲得。北京冬季五輪では、欧米の外交ボイコットに対抗するように、SNS外交を展開した。

北京五輪フィギュアエキシビションで、羽生結弦選手とビンドゥンドゥン(写真:新華社/アフロ)
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たまに見せる笑顔

   華春瑩報道局長(当時報道官)のツイッターアカウントが開設されたのは、2020年2月。当初は「なりすましでは?」とも疑われた。

   華局長は欧米や日本を強い口調で批判する「強面」報道官として知られるが、河野太郎外相(当時)との「自撮り」ツーショットがツイッターに投稿されたり、日本人記者からのパンダの「シャンシャン」に関する質問を発音が似ている「杉山(Shanshan)晋輔外務事務次官」(同)と聞き間違え、勘違いに気づいて爆笑したりと、たまに見せる笑顔が日本のネット民の心をくすぐってきた。

   華局長のツイッターのフォロワー数は現在までに110万人を突破。記者会見で強気の発言を繰り返し、117万フォロワーを抱える趙立堅報道官と、中国外交官インフルエンサーの双璧を形成している。

   日本での知名度の高さを意識してか、華局長は折に触れ日本語の投稿も行う。J-CASTニュースの2021年6月24日の記事によると、それまでの1年間に発信した日本語ツイートは計10件。うち6件がパンダ関連で、パンダを日中友好の強力コンテンツとみなしていることが伺えた。


趙報道官の日本語投稿、華局長に比べると非常に少ない

「ギドゥンドゥン」に北京駐在のすすめ

   新型コロナウイルスの流行を受け、2022年の北京冬季五輪の観戦を中国在住者に限ると決定した直後の2021年10月、華局長は「羽生結弦選手のファン」に向けた日本語メッセージをツイート。中国での羽生選手の人気ぶりに注目が集まるきっかけになった。

   2月の大会中、華局長の日本語メッセージは6件に上り、大会マスコット「ビンドゥンドゥン」との絡みで一躍有名になった「ギドゥンドゥン」こと日本テレビの辻岡義堂アナウンサーに北京駐在を呼びかける力の入れようだった。


華氏のツイッターより

華氏のツイッターより

   米中対立で国際的に孤立する中国は、外交部を挙げて欧米のSNSでの情報発信に力を入れており、特に冬季五輪中は、「友好」をアピールする機会として、どのアカウントも投稿頻度が増えた。

   中でも自由奔放、時に過激な投稿で注目を集めるのが、2021年8月に開設され、2万7000人のフォロワーを持つ薛剣駐大阪総領事のアカウントだ。日々の膨大なRTとリプライでご当人の投稿を掘り出すのも一苦労なのだが、絵文字と「!!!」を多用して日中友好を叫ぶだけでなく、中国の批判報道に怒りを表したり、米国をののしったり感情起伏がなかなかに激しい。


薛氏のツイッターより

薛氏のツイッターより

   薛総領事はユーチューブ配信もしている。「ツイッターで腹立たしい思いをしたときのリラックス方法」について質問を受けると、「中国についてめちゃくちゃなことを言ってくる、攻撃を仕掛けてくる人に出会うと心が苦しい」と語りながらも、「そういう人の言うことは、こちらの耳(右耳)から入って、こちらの耳(左耳)から出ていくようにしている」と率直すぎる対処法を明かしている。

   自分の投稿に突然リプライがついたことで、薛総領事のアカウントの存在を認知したという東京都内の会社員男性(27)は、「発言が強烈でハラハラするが、微妙にださい絵文字と日本語の脂っこさが癖になる」と話した。


中国駐大阪総領事館のYouTubeチャンネルで配信する薛総領事

【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」

浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。「中国」は大きすぎて、何をどう切り取っても「一面しか書いてない」と言われますが、そもそも一人で全俯瞰できる代物ではないのは重々承知の上で、中国と接点のある人たちが「ああ、分かる」と共感できるような「一面」「一片」を集めるよう心がけています。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37

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