ロシアの侵攻で肥料高騰 食料輸入に加え国内の農業生産もピンチ

   ロシアのウクライナ侵攻で、世界的に穀物価格が高騰している。加えて農産物本体だけではなく、肥料の入手難、価格高騰も始まっている。ロシアは肥料原料の輸出国でもあるため、世界的に肥料の調達に支障が起きており、今年の農産物の収穫に大きな打撃を与える可能性があるという。

肥料の原料は99%が輸入だという(写真と本文は関係ありません)
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生産者は「三重苦」

   農産物の肥料は、窒素、リン酸、カリウムが三要素からなる。NHKなどの報道によると、日本の場合、このうちカリウムは全体の約4分の1をロシアとベラルーシから輸入している。しかし、ロシアに対する経済制裁で、商社などは輸入を取りやめている。リンは約9割を中国から輸入しているが、中国はすでに2021年秋から国内向けを優先、輸出規制しており、価格が高騰している。

   22年4月18日の時事通信によると、全国農業協同組合連合会(全農)は、リンの調達先をモロッコに切り替えるなど、対応に追われている。

   全農はこの先も肥料原料の国際価格が高値で推移するとみており、今年秋に使用する肥料の価格改定でも値上がりを見込んでいるという。

   施設園芸の被覆素材や暖房用として使われる原油価格も高騰、さらに円安による輸入物価押し上げも重なり、生産者は「三重苦」になっていると時事通信は報じている。

99%が輸入

   ロシアやウクライナは世界有数の穀倉地帯。ロシアのウクライナ侵攻で、すでに小麦やトウモロコシ、大豆など主要穀物価格が高騰している。さらにこのところ目立っているのが、「肥料」に関する報道だ。

   日テレNEWSは4月26日、「ウクライナ情勢 肥料価格にも影響で農水省が調査団派遣へ」というニュースを伝えた。政府が、肥料の原料生産国に初めて調査団を送るという。化学肥料の原料の調達先が特定の国に偏っている現状から脱却することを目指し、輸入元を多元化するためだ。

   TBSも27日、「肥料高騰で問われる食料安全保障の本気度」と、肥料問題を食料の安全保障の角度から取り上げている。日本の「農」を支える肥料の原料は99%が輸入だという。

   NHKは28日、「ウクライナ侵攻などで肥料の原料調達に支障 農水省が支援強化」と、政府の対応を報告している。26日の政府の物価上昇をふまえた緊急対策では、肥料メーカーが輸入元の切り替えによって生じる輸送コストの増加分を補助することが決まった。武部農林水産副大臣は今月中に、リン酸アンモニウムの産出国であるアフリカのモロッコを訪れ、日本への安定的な供給を働きかけることにしているという。

価格は2倍超に

   「肥料危機」は日本だけの問題ではない。ナショナルグラフィックはすでに3月29日、「ウクライナ侵攻による食料危機、最大の脅威は『肥料不足』」という記事を公開している。

   それによると、ウクライナ、ロシア、ベラルーシは食料だけでなく、大量の窒素肥料とカリウム肥料の輸出国。記事の中で、米ワシントンにある国際食糧政策研究所(IFPRI)のシニアアナリストであるデビッド・ラボード氏は、「食料システムが直面している最大の脅威は、肥料取引の崩壊です。小麦の影響が及ぶのは数か国ですが、肥料問題は世界中のあらゆる農業従事者に及び、小麦だけでなく、すべての食料生産を減らす恐れがあります」と警告している。

   5月1日の日本経済新聞も「肥料高、食糧危機に波及」という記事を掲載。「価格2倍超、ロシア侵攻で供給後退」「収穫減り新興国に打撃」「日本の食卓にも影」と、肥料高が生産停滞や食品価格の値上がりなどに直結し、影響は全世界に拡大、これから一段と深刻化する恐れがあると指摘している。

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